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2026/9/17

ビタミンA、Dによる気管支喘息の予防効果

文責:橋本 款

今回の論文のポイント

  • 喘息発作の予防法を確立することは臨床医学における重要な課題の一つである。これに関連して、ビタミンA、Dは、肺機能を促進し、喘息患者さんに有益であると考えられているが、現時点で確定的とは言えない。
  • 本プロジェクトはコスタリカ*1における喘息患者さんを対象にした2つの喘息コホート*2(それぞれ、GACRS:小児n=1165、ODOLLF:成人n=1041)の解析を通して、ビタミンA、Dと喘息との関連性を検討した。
  • その結果、ビタミンAは、小児および成人において肺機能を守り、ビタミンDは、成人におけるエピジェネティックな老化の低下を遅らせることがわかった。
  • したがって、食生活におけるビタミンA、Dの摂取が喘息発作の予防に有効であると思われる。
図1.

気管支喘息は、気道が慢性的に炎症を繰り返すことで気管支が狭くなり、喘鳴(ヒューヒューといった連続した呼吸音)や呼吸困難などの発作が生じて適切な処置を行わないと命に関わることもある深刻な病気です。治療は、気管支拡張薬*3やステロイドなどの薬物療法が中心になりますが、適度な運動、禁煙、十分な睡眠など日々の生活習慣が喘息発作の予防に重要です。近年、ビタミンの欠乏が多くの疾患の発病に関係があることが明らかにされて来ましたが(図1)、目の健康にかかわるビタミンAや骨の健康を支えるビタミンDが、喘息に関しては、免疫機能の調節や炎症の抑制、組織の修復などに関わり、肺の健康を維持するうえで重要な役割を担う可能性が想定されてきました。今回、米国・ハーバード大学病院マス・ジェネラル・ブリガム*4のRink Sharm博士らは、中米コスタリカで実施されている2つの喘息コホート研究に参加した小児1165人と成人1041人、計2206人の喘息患者さんのデータを解析した結果、小児と成人のいずれにおいても、血液中のビタミンA、Dの濃度が高いほど、肺の働き(呼吸機能)が良好であることが明らかになりました。さらに、成人においては、血中ビタミンDが多い人ほど、細胞レベルで進む「肺の老化」も緩やかであるということがわかりました。これらの結果は、日頃の食生活におけるビタミンA、Dの摂取が喘息発作の予防に有効であるという新たな知見を提供するものであり、喘息の患者さんにとっては朗報です。したがって、今回は、最近の『Thorax』に掲載された論文(文献1)を報告いたします。


【文献】
Sharma R, et al., The impact of vitamins A and D on lung function and regulatory epigenetics in adult and childhood asthma. Thorax 2026 Jun 30: thorax-2025-223756.


【背景・目的】

ビタミンAおよびDは、肺の発達および免疫機能に関与する遺伝子発現の主要な調整因子であり、これまでの研究では、投与量や状況に応じて喘息および肺機能に保護効果と副作用の両方が現れると報告されている。また、DNAメチル化やmiRNA発現などのエピジェネティック*5なメカニズムにも影響を与えると言われている。これらのビタミンと喘息の関連性を確認することが本研究の目的である。

【方法】

  • GACRS(小児喘息患者さんn=1165)およびODOLLFA(成人喘息患者さんn=1041)の2つの喘息コホートが対象となった。
  • 小児および成人において、血漿/血清ビタミンAおよびDレベルを測定し、呼吸機能*6(FEV 1、FVC、FEV 1/FVC)、血清miRNAプロファイル、血液DNAメチル化を評価して、ビタミンレベルと肺機能との関連性を調べた(統計処理法の詳細は、原論文を参照して下さい)。
  • 成人において、メディエーション解析*7は、メチル化状態とmiRNAがビタミンと肺機能、あるいはエピジェネティックな老化との関係を媒介しているかどうかを評価した。

【結果】

  • 小児におけるビタミンAの上昇は、より高いFEV1(β=2.5、p=4.9×10-3)およびFVC(β=7.6、p=7. 7×10-14)と関連していたが、FEV1/FVC(β=−3. 9、p=2.0×10-16)との関連性は低かった。ビタミンDは関連性を示さなかった。
  • 成人では、両方のビタミンがFEV1(ビタミンA: β=4.7、p=9. 3×10-3、ビタミンD: β=0.16、p=8.6 ×10-3、FVC(ビタミンA: β=3.4、p=3.0×10-2、ビタミンD: β=0.18、p=4.6×10-4)に関連したが、FEV1/FVCに関しては、ビタミンAのみが(A: β=2.5、p=3. 9×10-2)と関連性を示した。
  • ビタミンDが十分な成人喘息患者さんでは、血液DNAの“老化時計”が比較的若い方向を示していた。また、ビタミンA, Dが高い人では、IRF5という免疫炎症関連遺伝子の調節部位でDNAメチル化が少なく、そのパターンは肺機能の良さや生物学的加齢の低さと関連していた。
  • メディエーション分析は、メチル化とmiRNAによる統計的部分的効果を示した。

【結論】

ビタミンAが、小児および成人における肺機能を守り、ビタミンDは、成人におけるエピジェネティックな老化の低下を遅らせた。

用語の解説

*1.コスタリカ
人口約515万人、平均寿命男性78.3歳、女性83.4歳。医療、保健は中米の中では整備された地域である。すべてのコスタリカ国民は公的な健康保険に加入し、公立病院を無料で利用することができる。人口1万人あたり医師28名、看護師30名、ベッド数12名。
*2.2つの喘息コホート
・GACRS(Genetic Epidemiology of Asthma in Costa Rica Study);小児喘息患者さん1165人の喘息の遺伝疫学研究を行った。
・ODOLLFA (Omic Determinants of Longitudinal Lung Function in Asthma); 成人喘息患者さん1041人の肺機能を長期的に追跡し、オミックス解析を行った。
*3.気管支拡張薬
気管支拡張薬は、気道の筋肉(気道平滑筋)に働きかけて、空気の通り道である気道を広げる作用を持つ。気管支拡張薬の種類には、薬が働きかける仕組みによって主にβ2刺激薬と抗コリン薬の2種類があり、また、作用する時間の長さで、短時間作用性と長時間作用性の2種類がある。これらは、主に、喘息とCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の症状を改善させるために使用し、気道平滑筋を拡張させ、空気の流れを良くし、息苦しさを軽減する。短時間作用性気管支拡張薬は発作時(急激に息苦しくなった時)に使用し、長時間作用性は症状を長期間コントロールする目的で使用する。
*4.マス・ジェネラル・ブリガム(Mass General Brigham)
米ボストンを拠点とする大規模な非営利医療グループで、ハーバード大学医学部の主要な教育関連病院群の一つとして知られている。マサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital)などを中核とする。非営利組織として、一般診療から高度先進医療、研究、教育まで幅広く担っている。
*5.エピジェネティック
エピジェネティックは、DNAの配列そのものは変えずに、遺伝子の働き方が変わるしくみを指す。エピジェネティックな変化は、成長、老化、生活習慣、環境の影響などに関わるとされ、たとえば同じDNAを持つ細胞でも、筋肉の細胞と神経の細胞で役割が違うのは、働く遺伝子が異なるためである。こうした遺伝子の使い分けにエピジェネティックな仕組みが関わる。エピジェネティックな修飾の代表的なものが「DNAメチル化」であり、メチル基が遺伝子上に存在すると、その遺伝子はオフまたはサイレンシングされ、その遺伝子からタンパク質が合成されなくなる。
*6.呼吸機能の指標
FEV1(Forced expiratory volume in 1s)は、1秒量とも呼ばれ、息を大きく吸ってから、最初の1秒でどれだけ強く吐き出せるかを示す。FVC(Forced vital capacity、努力性肺活量)は、思いきり吸ってから一気に吐き出せる空気の量を示す。FEV1/FVCは、吐き出した総量のうち最初の1秒でどれだけ吐けたかを示す割合で、1秒率とも呼ばれ、一般に70%以上が正常の目安とされ、この割合が低いと、気道が狭くなって空気を早く吐き出しにくい状態(喘息やCOPDなど)が疑われる。
*7.メディエーション解析(媒介分析)
メディエーション解析とは、ある原因が結果に影響する「経路」を、媒介変数を通じた間接効果と直接効果に分けて調べる統計手法である。原因(独立変数 X)、結果(従属変数 Y)、間に入る説明要因(媒介変数 M)という3つの役割を想定し、「X→Yの総合効果」をX→Y の直接効果、X→M→Yの間接効果に分解して評価する。これにより、「XがYに影響するか」だけでなく、なぜ影響するのか(メカニズム)、どの経路がどれくらい効いているかを評価出来る。

文献1
Sharma R, et al., The impact of vitamins A and D on lung function and regulatory epigenetics in adult and childhood asthma. Thorax 2026 Jun 30: thorax-2025-223756.