
これまでお伝えしておりますように、近年、PDの治療に関連する臨床試験が精力的に行われています(図1)。中でも、抗α−シヌクレイン(αS)免疫療法*3(モノクローナル抗体Prasinezumabを用いたパーキンソン病の免疫療法〈2024/8/20掲載〉)やグルカゴン様ペプチド-1 (GLP-1)受容体アゴニスト、エキセナチド*4(エキセナチドのパーキンソン病治療効果は確認されず;第3相臨床試験〈2025/3/4掲載〉)、は、期待されましたが、それぞれ、第2相、第3相試験で失敗に終わりました。最近、注目されているのが、幹細胞由来のドーパミン細胞前駆体の脳内移植です。移植実験は1980年代に流産・中絶組織より得られた胎児の中脳腹側の一部をPD患者さんの脳に移植し、一定の治療効果が得られたことから始まります。しかしながら、ヒト胎児脳の移植では、十分な細胞数を得られないこと、倫理的な問題があることなどを克服するために、最近、iPSCを分化させて得られるドーパミン神経細胞の前駆体細胞を移植することが検討されました(iPS細胞を用いたパーキンソン病の再生医療;第1/2相臨床治験〈2025/4/30掲載〉)。さらに、iPSCを用いる場合、もし、個別にiPSCを調整するならば、多くの手技・費用がかかると予想されます。スウェーデン・スコーネ大学病院(Skåne University Hospital)のPaul, G.博士らは、これらの問題点をiPSCの代わりにESCを用いることで解決出来ないかと考え、ESC由来のドーパミン前駆体細胞を用いた中等度PDの患者さんの脳内に細胞移植治療;第1・2相試験を実施しました。その結果は、ヒトにおける実現可能性と良好な安全プロファイルを移植後12ヶ月において暫定的に裏付けるものであり、Nature Medicineに掲載されましたので、今回はこの論文(文献1)を報告いたします。気をつけなければならないのは、移植療法自体は症状改善を目的としたものであり、PDの進行(特に、αSの神経変性)を改善するものではありません(すなわち疾患修飾療法*5ではない。)。したがって、これまでのαSの凝集抑制を目的としたメカニズム・治療研究を続ける必要があります。
【文献】
Paul, G. et al., Human embryonic stem cell-derived dopaminergic cells for Parkinson’s disease: a phase 1/2 open-label trial.Nat Med 32, 3449-3457 (2026).
近年、幹細胞に由来するドーパミン細胞前駆体の脳内移植によるPDの治療が注目されている。本研究の目的は、ESCを分化させて得られるドーパミン細胞前駆体脳内移植の効果を第1・2相臨床治験で評価することである。
ここでは、ヒトの多能性幹細胞ESCから派生した、既製の市販のドーパミン作動性前駆体製品であるSTEM-PD*6を評価する第1/2相、オープンラベル*7、多施設試験による12ヶ月間の一次安全性エンドポイントおよび暫定的な有効性の結果を報告する。
Clinical Trials.gov識別番号:NCT05635409
これらの知見は、ヒト多能性幹細胞由来のドーパミン性前駆体移植の実現可能性および良好な安全性プロファイルを、この初期段階の研究において裏付けるものであり、リスクは主に免疫抑制療法に関連している。36ヶ月までの継続的な追跡調査により、耐久性、臨床成績および移植機能がさらに評価されます。