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2020/12/25

子供はなぜ、新型コロナウイルスに感染しにくいのか(感染しても症状が出にくいのか)?(2)

文責:正井 久雄

子供たちは新型コロナウイルスにたとえ感染しても、熱、咳、喉の痛み、嗅覚・味覚の変化くらいの症状に限られ、重篤な症状が出ることはほとんどありません。免疫抑制されているような通常の危険因子を有する子供でも、新型コロナウイルスに対して特に危険度が増すことはありません。SARS-CoV-2のこの特徴は、RSウイルス(respiratory syncytial virus)、メタニューモウイルス(metapneumovirus)、パラインフルエンザウイルス(parainfluenza)あるいはインフルエンザウイルス(influenza viruses)など、子供に感染しやすく、重症化を引き起こす可能性の高い他の呼吸器系ウイルスに比較して際立っています。

子供はSARS-CoV-2に対して感染しやすいかどうかについては、文献上異なる報告がされています。子供は、大人と同じようにウイルスを保持しているが、症状が出ないことが多く、その結果子供の間の感染が広かる危険性を持っているという報告もあります。したがって、子供は感染しにくいかどうかの決着はついておらず、もし本当に感染しにくいとしたらそれはなぜかという問題が残ります。今回発表された論文で、著者らは、子供がSARS-CoV-2感染から保護されている理由について3つの可能性を提唱しています。

内皮細胞系の違い

SARS-CoV-2は血管内皮細胞に感染し、血管の炎症を引き起こし、血管新生に影響を与え、心臓発作などを引き起こすため、糖尿病や高血圧の病歴のある患者さんは重症化の可能性が高まります。子供の血管内皮細胞は、大人に比較して血管の損傷の程度が低く、血液凝固システムも異なっているので、子供では異常な血管の詰りなどが生じにくいと考えられます。

免疫系の違い

自然免疫はSARS-CoV-2に対する最初の防御に重要な役割を果たしますが、子供は、大人よりナチュラルキラー細胞が多いなど強い自然免疫を有していることが一つの要因です。また、感染後に誘導される、自然免疫記憶を誘導するtrained immunity(訓練免疫状態)の違いも要因の一つに挙げられます。子供は複数のウイルスに感染することが多く、それによりtrained immunityがさらに効率化し、SARS-CoV-2に対する防御力がより向上している可能性があります。

子供は、非中和抗体を多く有するが、中和抗体のレベルは大人に比較して少ないことが知られています。大人の場合、中和抗体が、高濃度で存在すると、抗体依存性感染増強(Antibody-dependent enhancement, ADE)が誘導され、ウイルス感染が促進され、重症化を促すことが知られていますが、子供ではそのような可能性が低いと言えます。

微生物叢(microbiota)の違い

もう一つの可能性は、呼吸器あるいは胃腸系の微生物叢です。微生物叢は、免疫、炎症や、疾患防御に置いて重要な役割を果たします。子供達の鼻では、大人よりウイルスや細菌が多く常在しています。特に鼻の中で顕著であり、これにより、SARS-CoV-2の増殖が抑制されます。また、子供は、腸内細菌の一つのBifidobacterium(ビフィズス菌)などいわゆる善玉菌をより多く有しており、これらはSARS-CoV-2に対抗する可能性があります。しかし、微生物叢は多くの因子の影響を受けるので、完全にその因果関係を証明するのは現状では困難です。

今後、年齢による新型コロナウイルスに対する感受性の違いのメカニズムの解明は、その予防と治療に重要な洞察を与えることが期待されます。


  1. Zimmermann P, Curtis N. Why is COVID-19 less severe in children? A review of the proposed mechanisms underlying the age-related difference in severity of SARS-CoV-2 infections. Arch Dis Child. 2020 Dec 1:archdischild-2020-320338.