最近、Cell Reports誌に報告された研究から、SARS-CoV-2感染に対する抗体応答、T細胞応答の解析から、ウイルスに対する初期応答にはT細胞反応が重要であり、長期にわたる感染防御には抗体が重要であることが明らかになりました。
新型コロナウイルスに感染すると、体内では、B細胞が産生する抗体による液性免疫と、抗体に応答するT細胞応答による細胞性免疫の2種類の免疫応答が誘導されます。この2種類の免疫応答がどのようにウイルス感染制御や、病状制御に関与するかについては現在も多くの研究が行われています。これまで、感染から回復した患者の抗体やT細胞を用いた研究は多くされてきましたが、感染時の患者を対象とした研究はされていませんでした。
今回、Duke-National University of Singapore (NUS) Medical Schoolの研究者らは12人の新型コロナウイルス感染症患者について、感染初期から回復時あるいは死亡時まで、継時的に、上気道のウイルス量、ウイルス特異的抗体及びT細胞を解析しました。
研究の結果、軽微な症状で回復した患者は、感染初期にインターフェロン-ガンマ(IFN-γ)を分泌するウイルス特異的T細胞を誘導することが明らかとなりました。しかし、細胞性免疫の程度によってのみでは、症状の重症度を予測することはできないことも示されました。
研究グループは、interferon (IFN)-γ enzyme-linked immunospot (ELISPOT)アッセイという方法を用いて、ウイルス構造タンパク質(nucleoprotein [NP], membrane [M], ORF3a, スパイクタンパク質など) や非構造タンパク質 (ORF7/8, NSP7, NSP13など)のエピトープに対するT細胞を解析しました。
SARS-CoV-2由来のペプチド全体に特異的なT細胞の量と、症状の重症度との間に、直接的な関連はみられませんでした。しかし、感染初期(1-15日)及び感染後期(15-30日)の両者において軽微な症状の患者にはIFN-γを分泌する細胞が多く検出されましたが、中程度〜重症の患者では検出されませんでした。
また、NP, ORF7/8, ORF3a, M及びスパイクタンパク質に特異的に反応するT細胞が初期に出現することと、感染が短期に収束することとの関連も見出されました。これらの結果は、 SARS-CoV-2に特異的なT細胞は、ウイルス感染を迅速に抑制し、最終的に症状を解消するために重要であることを示します。
以上の結果は、また、SARS-CoV-2に対して、抗体とT細胞応答の両者を誘導できるワクチンはより効果的であることを示します。
この研究では、最も重症の患者で、迅速に、かつウイルス特異的な強い中和抗体の産生が確認されました。中和活性は、スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)のACE2(angiotensin-converting enzyme 2)受容体分子への結合を、血清の抗体が阻害する活性で測定されました。
患者の中和活性のピークは症状が出始めて9〜15日くらいに検出され、中程度から重症の患者では症状が軽微な患者より、強い抗体反応を示しました。ペプチドに反応するT細胞は大部分CD4+細胞でしたが、NPペプチドに特異的に反応する CD8+細胞も検出されました。
SARS-CoV-2特異的なT細胞はウイルス喪失後に急速に減少するので、どのタイミングで解析するかにより、T細胞応答のレベルは大きく変化すると予想されます。
ORF7/8に特異的なT細胞は感染直後に特異的に検出され、この時期のORF8特異的な抗体の増加と合致しています。これにより、IFN-γ応答が感染初期に強く誘導され、ウイルスも消失します。これは、軽微な症状の患者のみで観察されます。
これらの発見は、SARS-CoV-2特異的なT細胞の検出を、感染者の予後を予測するための手段として開発できる可能性を示唆します。
感染患者についての免疫反応の継時的解析の結果
軽症の患者では、IFN-γを分泌するT細胞が活性化される。中和抗体の産生は重症の患者で多く作られている。