2021/3/8
新型コロナウイルス禍を収束させるために、ワクチン開発は鍵を握ります。現在流通している主要なワクチンはmRNA型ですが、別の型のワクチン開発も世界各地で行われています。最近、2種類の新しいワクチン候補が開発され、動物モデルでの有効性が示されました。
一つ目は、ワクシニアウイルスに由来するベクターに基づくものでImmunity誌に報告されました(文献1)。もう一つは、Alphavirusに由来する複製型RNAレプリコンを誘導するDNA型ベクターに基づき、Scientific Reports誌に報告されました(文献2)。
世界でしのぎを削って新型コロナウイルスに対するワクチン開発が行われていますが、まだ、次に記載するような多くの問題が未解決の状態です。
特に、ワクチン接種後の免疫応答の持続性は重要な問題です。また現状のmRNA型ワクチンは、超低温フリーザーに保存する必要があり、ワクチンを必要とする多くの国々においては、保存が困難であり接種自体が不可能になる可能性があります。
Emory大学のYerkes National Primate Research Centerの研究者は、改変したVaccinia Ankara(MVA)vectorsを用いて細胞膜にアンカーしたprefusion型のSpikeタンパク質を標的として、新たなSARS-CoV-2ワクチンを開発し、マウスとサルの両者で安全性と有効性を確認しました。
MVAは減弱型のワクシニアウイルス由来であり、一般に強力な、持続性のある抗体産生、T細胞応答を誘導することが知られています。またこのベクターは大きな遺伝情報を収容することが可能で、複数の抗原を発現する事ができ、高力価のワクチンの開発が期待されます。
このワクチンは、マウスにおいて、SARS-CoV-2に対して、強力な中和抗体とCD8陽性T細胞を、血液と肺に誘導しました。マカク(大型猿)においても、2回のワクチン接種により、中和抗体とCD8陽性T細胞を誘導し、2日後には、鼻腔内あるいは気管内へのウイルス感染からの防御を示し、肺におけるウイルス複製も阻害しました。
マカクにおいて、ウイルス感染4日後の肺細胞の一細胞RNA解析の結果から、MVA/Sワクチン接種は、感染により誘導される炎症やB細胞異常を防ぎ、インターフェロンによる遺伝子誘導を低下させることが明らかになりました。研究グループは、一回接種で効果を示すワクチンの開発、複数の抗原遺伝子をベクターに導入することによりさらにT細胞応答を強化することを目指して、開発を続けています。
もう一つの論文では、スウェーデン、カロリンスカ研究所の研究者が、DNAワクチンプラットフォームを用い、安定で産生しやすく、安全性も高いSARS-CoV-2に対する新型ワクチンの有効性を報告しました。
ワクチンは、AlphavirusというウイルスDNA型で、自己増幅可能なRNAレプリコンベクター(DNA-launched self-amplifying replicon RNA vector; DREP)を用い、Spikeタンパク質を発現します。用いられるAlphavirusゲノムは、Semliki Forest virus(SFV)由来で、複製に必要なウイルスRNAレプリカーゼをコードしますが、ウイルス粒子形成に必要な構造タンパク質は有していません。細胞内でDNAから発現されたRNA分子は複製しますが、新しいウイルス粒子は形成されません。自己複製するレプリコンベクターはアジュバント活性を持ち、感染した細胞の細胞死を誘導します。
DREPは、迅速なワクチン開発に適しており、どのような抗原でも取り込むことが可能で、これまでのDNAワクチンに比べて、少ないDNA量の投与で効果を示します。重要なことは、輸送と保管時に冷蔵を必要としないことです。このワクチンは裸のDNAとして投与されるので、今後新興ウイルスへの迅速なワクチン対応にも応用が期待されるプラットフォームです。
DREP-S ワクチンは、結合抗体と中和抗体の両者を産生するとともに、T細胞応答も誘導しました。DREP-Sにより産生された抗体は、一回の接種で、マウスにおいて高いウイルスの中和活性を示しました。この型のワクチンは、 主に、Tヘルパー細胞1型の細胞応答を誘導し、望ましい抗ウイルス活性を示します。また、一回の接種でSpikeタンパク質に対して強い細胞応答を誘導することができました。
異なるタイプのワクチンは、それぞれの長所を有しており、最初にある型のワクチンの接種を受け、2回目は異なる型のワクチン接種を受けるなどにより、相乗的な効果が得られる可能性があります。実際、今回マウスの実験ではそれを支持する結果も得られています。
我が国でも、独自に数多くのワクチン開発が進行しています。当研究所においても、ワクシニアウイルスベクターを用いたワクチン開発が、上記の報告と同様に、前臨床試験段階に進んでおり、これまでに、マウスやカニクイザルを用いた実験から、効果的な中和抗体とT細胞応答の誘導、さらに極めて強い感染防御効果を確認しており、現在臨床試験に進めようとしております(報告はこちら)。