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研究者向け

2021/4/6

COVID-19とアポリポプロテインE(ApoE)

文責:橋本 款

COVID-19は老人や基礎疾患のある人において重症化しやすいことが知られていますが、詳しいことは不明でした。これに関連して、英国BiobankでApoEのgenotypeが調査され(451,367人)、興味深いことに、E4/E4がCOVID-19の重症化に相関することが報告されました(Kuo et al. Gerontol A Biol Sci Med Sci 2020)。御存知のように、ApoE4は弧発性アルツハイマー病や動脈硬化の危険因子であることから、COVID-19の老年疾患の病態促進においてApoE4が重要である可能性に焦点が当たるようになりました。このような背景で、第1回目は以下の論文を紹介致します。詳細は原著(*)を参照してください。

Wang C et al.(2021)ApoE-Isoform-Dependent SARS-CoV-2 Neurotropism and Cellular Response. Cell Stem Cell 28: 331–342.e5.

目的;著者らは、ApoEのgenotypeに応じてSARS-CoV-2の神経向性が異なり、ApoE4がSARS-CoV-2に対する感受性を増加させることが、COVID-19の重症化に相関するのではないかという仮説をヒトiPS細胞を用いて検討した。

  • まず、SARS-CoV-2はiPS細胞由来のneuronやastrocyteのそれぞれに感染し、iPS neuron・astrocyteの共培養系やオルガノイドでは、感染性は明らかに亢進した。
  • 次に、ApoE4/4 iPS細胞からゲノム編集(CRISPER-Cas9システム)によってApoE3/3 iPS細胞を作製し,両者を比較した結果、ApoE4/4のneuronやastrocyteはApoE3/3のそれらの細胞よりも有意にSARS-CoV-2の感染性が高いことが観察された。特にApoE4/4 iPSのastrocyteはSARS-CoV-2の感染によって腫大し、細胞核の断片化が亢進していた。
  • 最後に、iPS neuron・astrocyteに対するSARS-CoV-2の感染性は、SARS-CoV-2抗ウイルス薬として開発中のremdesivir(FDA認可)を処理により減弱した。

結論;これらの結果はApoE4がCOVID-19の重症化の原因であることを示唆するものであり、今後の治療に影響すると思われる。


* 論文
Wang C et al.(2021)ApoE-Isoform-Dependent SARS-CoV-2 Neurotropism and Cellular Response. Cell Stem Cell 28: 331–342.e5.