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2021/5/11

新型コロナウイルスに対するワクチン接種の効果

文責:橋本 款

最近、我が国においても、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のワクチン接種が始まり、その予防効果が期待されています。先行する欧米では、ワクチン接種が進み、良好な結果が発表されていますが(文献1)、その一方で、ワクチンを接種したにもかかわらず、変異株に再感染する例が報告されており(文献2)、変異株が急速に主流になりつつある現時点ではワクチン接種のブレイクスルーは重大な問題です。このような状況で、今回は以下の2つの論文を紹介致します。詳細は原著を参照してください。


文献1
COVID-19 dynamics after a national immunization program in Israel, Hagai Rossman et al,
Nature Medicine (Apr 19th, 2021).

イスラエルにおける新型コロナワクチン全国予防接種プログラムの効果


背景

イスラエルでは、2020年12月20日から新型コロナワクチン接種が始まり、優先対象の60歳以上では、2021年2月24日時点で既に85%が2回の接種済みである。現在、新型コロナワクチンの接種が各国にて進められているが、社会における実質的な効果の検証が必要であり、イスラエルの結果はこの目的に適している。

方法と結果

著者らは、2020年8月28日~2021年2月24日に収集したイスラエル保健省のデータを後ろ向きに分析した。すなわち、2020年12月20日に開始された ファイザー社製BNT162b2 mRNAワクチン接種キャンペーン後、(1)優先接種対象の60歳以上とそれ以下の年齢層、(2)2020年9月のロックダウンと2021年1月のロックダウン、(3)ワクチン接種の実施が早かった都市と遅い都市の3項目について、ワクチン接種が新しいCOVID-19症例数と入院数の経時的変化に対してどのように影響しているかを検証した。

  • 年齢層の検証では、ワクチン接種の優先順位の高かった60歳以上で、それ以下の年齢層よりもCOVID-19症例数および入院数が大幅かつ速やかな減少が見られた。この傾向は、国のワクチン接種優先スケジュールの順番と正比例していた。
  • また、同様の減少傾向は2021年1月のロックダウン時には見られたが、ワクチン接種の実施前となる2020年9月のロックダウン時には観察されなかった。
  • 地域の検証では、早期にワクチン接種を実施した都市において、60歳以上のCOVID-19症例数および入院数の大幅かつ速やかな減少が見られた。具体的には、早期に実施した都市では、ピーク値と比べCOVID-19症例数は88%、重症者入院率は79%減少したのに対し、後期に実施した都市ではCOVID-19症例数78%、重症者入院率66%の減少にとどまった。

結論

以上のように、イスラエルにおけるワクチン接種の開始前後におけるCOVID-19症例数と入院数の経時的変化について分析したところ、ワクチン接種における年齢および地域の優先順に、COVID-19症例数および入院者数が大幅かつ速やかに減少傾向を示していたことがわかった。これらの結果はコロナパンデミックに対する全国的なワクチン接種キャンペーンの実効性を示唆している。

文献2
Vaccine Breakthrough Infections with SARS-CoV-2 Variants, Ezgi Hacisuleyman et al.
N Engl J Med (April 21st, 2021).

SARS-CoV-2変異株によるワクチン接種のブレイクスルー


背景

米国・ロックフェラー大学の全職員および学生(約1,400人)は2020年秋から、少なくとも週1回PCR検査を受けており、新型コロナワクチン接種後の評価をするのに適している。

方法と結果

著者らは、2021年1月21日~3月17日に、「BNT162b2」(Pfizer-BioNTech製)または「mRNA-1273」(Moderna製)ワクチンの2回接種を受けた職員417人のPCR検査結果を調べた。対象者は、調査期間よりも2週間以上前にワクチン接種を受けていたが、そのうち2人の女性について、COVID-19の症状が出現し、PCR検査の結果でSARS-CoV-2陽性が示された。

患者1は、 51歳女性でCOVID-19の重症化リスク因子はなし。1月21日に「mRNA-1273」ワクチンの1回目接種を、2月19日に2回目接種を受けた。2回目接種の10時間後にインフルエンザ様の筋肉痛が発症したが翌日に解消している。2回目ワクチン接種から19日後の3月10日に喉の痛み等を呈し、大学でPCR検査を受けSARS-CoV-2陽性が確認された。翌11日に嗅覚を消失したが、1週間ほどで症状は改善した。

患者2は、65歳の健康な女性でCOVID-19の重症化リスク因子はなし。1月19日に「BNT162b2」ワクチンの1回目、2月9日に2回目の接種を受けており、接種した腕の痛みが2日間続いた。3月3日、ワクチン未接種のパートナーがSARS-CoV-2陽性となり、患者2は、3月16日に倦怠感、副鼻腔うっ血、頭痛の症状が現れ、ワクチン接種から36日後の3月17日に体調不良を訴え、SARS-CoV-2陽性が確認された。症状は悪化せず、3月20日から回復に向かった。

両患者のウイルスのシークエンシング解析の結果、臨床的重要性があると考えられる変異株、E484Kが1人から、3種の変異株(T95I、del142-144、D614G)が両者から検出された。

結論

これらの結果から、新型コロナワクチンを2回接種後にも、新型コロナウイルスへのブレイクスルー感染が認められ、変異株への感染があることが確認された。


文献1.
Hagai Rossman et al, COVID-19 dynamics after a national immunization program in Israel. Nature Medicine (Apr 19th, 2021).
文献2.
Ezgi Hacisuleyman et al, Vaccine Breakthrough Infections with SARS-CoV-2 Variants. N Engl J Med (April 21st, 2021).