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2021/6/8

ビタミンDを接種することで新型コロナウイルス感染や重症化を防げるのか
(メンデルランダム化解析)

文責:宮川 卓

ビタミンDは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)やその重症化と関係するか、ゲノム情報を用いたメンデルランダム化解析により明らかにされましたので、紹介します。(引用文献1)

ビタミンDは免疫を調整する働きがあり、インフルエンザやかぜなど、呼吸器系の感染症に効果があると言われています。そのため、ビタミンDを接種することによりCOVID-19やその重症化を防ぐことができるかが注目されています。現在、多くの人がビタミンD不足状態になっていることが知られています(アメリカでは70歳以上の方の約38%がサプリメントでビタミンDを補充しているそうです。個人的にこの数値の高さに驚きました。)。もしビタミンDとCOVID-19が真に関連するのであれば、公衆衛生上の重要な問題となります。

現時点で実施されている多くの研究は、観察研究であり、ビタミンDはCOVID-19と関連するという研究結果もあれば、関連しないとする研究結果もあり、結論が出ていない状態です。しかし、このビタミンDは数多くの交絡因子*が存在することが知られています。それに加え、感染したこと自体がビタミンDの血中の濃度に影響を与える可能性もあります。観察研究では、これらの要因により、結果が歪められてしまうことが大きな問題です。交絡因子などの影響を排除し、ビタミンDの効果を検証するためには、無作為化比較試験と呼ばれる厳密な研究を行う必要があります。しかし、大規模な無作為化比較試験は莫大な費用と時間を要し、その実施は容易でありません。そのため、交絡因子などの影響を排除する新たな方法として、近年メンデルランダム化解析*が注目されています。メンデルランダム化解析は、例えば公開されているゲノム情報を活用することで、迅速に解析することが可能になるというメリットもあります。

*交絡因子とメンデルランダム化解析の詳細に関しては、改善可能なライフスタイル要因と新型コロナウイルス感染症の重症化の記事を読んで頂ければと思います。

メンデルランダム化解析を行うためには、まず血中のビタミンD濃度と確実に関連する遺伝子変異の情報が必要となります。そこで論文の筆者らは、443,734例のゲノム解析により明らかにされた血中のビタミンD濃度に影響を与える遺伝子変異を選択しました。

次に、COVID-19のゲノム解析では、次の3つのセットが解析されました。

  1. 新型コロナウイルス感染の有無(感染者14,134例、非感染者1,284,876例)
  2. 入院の有無(入院した患者6,406例、入院しなかった人 902,088例)
  3. 重症化の有無(重症化した患者4,336例、重症化しなかった人 623,902例)
  4. (②と③の入院しなかった人と重症化しなかった人には、感染していない人も含まれています。)

解析のイメージとしては、ビタミンDの血中濃度を上昇させる遺伝子変異(遺伝的な素因)が、COVID-19のリスクを低下させるか、見ていく形になります。なお、これらゲノム解析はヨーロッパ系の人より得られたデータです。

解析の結果、ビタミンDの血中濃度に影響を与える遺伝的な素因(つまり遺伝的に推定されたビタミンDの血中濃度)が、新型コロナウイルスの感染、入院や重症化と関連するという証拠は確認されませんでした。この結果は、ビタミンDをサプリメントで補充することで、その血中濃度を上げたとしても、COVID-19への抵抗力は向上しないことを示唆しています。このことから、筆者らは、費用と時間を必要とする無作為化比較試験は、ビタミンDの評価ではなく、他の治療法や予防方法の評価のために優先的に行われるべきだと主張しています。

しかし、この研究には制約(limitation)があることも言及されています。第一に、ビタミンD欠乏症の患者さんは、この研究で対象になっていないため、この患者さんではビタミンDの補充がCOVID-19への抵抗性を示す可能性があります。他のlimitationとしては、この研究はヨーロッパ系の人を対象としているため、その他の集団では異なる結果が導かれる可能性もあります。

そのためにも、ヨーロッパ系の人以外のゲノム解析は非常に重要となります。最近、日本人のCOVID-19の重症化に関わる新規遺伝要因(DOCK2遺伝子)が報告されました。『コロナ制圧タスクフォース』のHP(https://www.covid19-taskforce.jp/ )に詳しい内容が紹介されていますので、ぜひご覧ください。


引用文献1
Guillaume Butler-Laporte, Tomoko Nakanishi, et al, Vitamin D and COVID-19 susceptibility and severity in the COVID-19 Host Genetics Initiative: A Mendelian randomization study. PLOS Medicine (2021). 18(6):e1003605.