2021/6/15
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬開発を成功させるには、SARS-CoV-2感染病態のメカニズムをよく理解し、それに基づいた戦略を立てることが効果的です(Mechanism based therapy)。しかしながら、これまでのSARS-CoV-2のアンギオテンシン転換酵素2を受容体とする細胞内への侵入、複製を標的にした治療薬開発の試みは成功するに至っておらず、新たなアプローチが必要です。最近、御伝えしてきましたように宿主内のリソソーム経路とSARS-CoV-2のインターフェースがウイルス感染に重要であり、したがって、創薬の標的になる可能性があります。具体的には、最近の論文に、SARS-CoV-2の感染下ではリソソームの脱酸が起こることから、リソソームの再酸性化を促進することがCOVID-19の治療に結びつくのではないかと述べられています(文献1)。これは、以前のCellの論文(文献2)の結果に基づいたものであり、詳細は原著を参照してください。
以前の研究によりSARS-CoV-2ウイルスが侵入し複製するメカニズムは明らかにされていたが、宿主内で新たに産生されたウイルスがどのようにして細胞外に出て行くかはっきりしなかった。
Ghoshらは、SARS-CoV-2ウイルスがリソソームに移動し、Arl8b依存性のリソソームのエキソサイトーシスに伴って細胞外に放出されることを証明した。これまでにない退出プロセスはリソソームの脱酸、リソソーム分解酵素の活性化の制限、抗原提示の障害を伴った。
実際、小胞体から原形質膜へのすべての順行性生合成分泌輸送を遮断する小分子であるBrefeldinAはSARS-CoV-2ウイルス放出に影響を与えなかった。さらに、SARS-CoV-2ウイルスは退出時に後期エンドソームとリソソームに集積するが、Rab7阻害剤CID1067700を加えてリソソームの生合成と維持を妨害すると、ウイルスの退出は有意に阻害された。
リソソームのトラフィッキングや新生を制御することは、SARS-CoV-2の感染・蔓延を防止することに有効かも知れない。加えて、リソソームの酸性化を回復させることで治療に結びつくと期待される。
現時点において、COVID-19の治療の中心はワクチンの開発・接種ですが、ワクチン抵抗性の変異型SARS-CoV-2の問題も懸念されることから、治療薬の開発は急務となっています。今後、COVID-19の治療薬開発にリソソーム経路が重要であり、創薬の標的になると予想されます。しかしながら、以前に述べましたように、ゴーシェ病やニーマン・ピック病などのリソソーム蓄積病では、COVID-19の重症度がかえって緩和されること、さらには、COVID-19の重症度はアポリポ蛋白E4にリンクすることなど、まだ、説明のつかない点も多く残されており、これらの統一的な理解も治療に必要ではないかと思います。