2021/8/31
以前に、COVID-19はパーキンソン病(PD)やレビー小体型認知症などのα-シヌクレイノパチーの病態を促進するという論文を紹介しましたが、現時点において、COVID-19が神経変性病態を促進するメカニズムは明確にされていません。しかしながら、COVID-19が高齢者に重症化しやすいことを考慮すれば、明らかにするべき重要な問題であると思われます。これに関して、いくつかの仮説が発表されていますが、今回は、当該分野のリーダーの1人、Van Andel InstituteのPatrik Brunden博士の論文(文献1)を紹介致します。
最近の3つの症例報告;Méndez-Guerrero et al., Neurology. 2020, Cohen et al., Lancet Neurol. 2020 and Faber et al. Mov. Disord. 2020, はCOVID-19罹患後の急性期(2-5週)の患者にパーキンソン兆候が出現したことを述べている。このことからCOVID-19がPDを一過性に促進するだけでなく、PDの長期的なリスクを高める可能性があるのではないかと懸念される。これらの患者は、それぞれ35,45,58歳で、いずれも入院を要する重度のCOVID-19に罹患した。2人のPD兆候は従来のドーパミン作動薬によく反応し、もう一人のPD兆候は自然に消失した。いずれの患者もPDに類似した黒質線条体系の機能低下を呈したが、家族歴に特記するものはなく、PDの前駆症状は無かった。1人は遺伝子検査を受けたがPDの危険因子のキャリアーではなかった。
これらのケースにおいては、SARS-CoV-2感染直後に起きたことからウイルス感染とPDの発症の間に何らかの因果関係があるかも知れないと推定される。我々は、以下のように3つのメカニズムを提案する。
これに関連して興味深い可能性はSARS-CoV-2の感染・浸潤がαS発現の上昇につながることであろう。このようなαS発現の上昇は、West Nile virusやWestern Equine Encephalitis virusでも見られ,また、 αSノックアウトマウスはWest Nile virus脳炎に感受性が高くなることから、αSの発現がウイルス感染中に増加し、ウイルス制限因子として作用する可能性を示唆している。
COVID-19の急性期にパーキンソン兆候が引き起こされるのは稀であるが、高齢期にPDを発症する危険性が増加しないかどうか、COVID-19の患者に対する大規模なコホート研究を注意深く行なう必要がある。現時点においては、互いに排他しないいくつかの可能性が考えられ、さらなる精査が必要である。
著者の推定したメカニズムのうち、最も興味深いのは「SARS-CoV-2が神経向性ウイルスであり、ウイルスが感染中するとαSの発現が増加し、αSがウイルス制限因子として作用する」でしょう。その理由は、他の可能性が主に病理作用を述べているのに対して、これはαSの生理作用まで言及しているからです。先月、御伝えしましたようにゲノム解析により、約25,000年前に SARS-Cov-2を含むいくつかのウイルスのパンデミックが起きたと推定されることから、進化の過程でSARS-Cov-2に関連した何らかの生理作用が形成されたと考えるのが自然だからです。このような進化医学の考え方が治療開発に有効になるかもしれません。