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2021/9/14

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種に対する年齢依存性免疫応答

文責:高松芳樹・橋本 款

SARS-CoV-2パンデミックは、さまざまなワクチンの開発をもたらし、そのうちいくつかのワクチンは緊急承認されました。これまでのところ、ワクチン接種による副反応やブレークスルー感染など、いくつかの問題が明らかになりましたが、総合的に見て、ワクチンはCOVID-19の拡大防止に効果的だったと言えるでしょう。有効な治療薬が確立されていない現状では、ワクチンに頼らざるを得ないので、ワクチン接種に関しての理解をさらに深める必要があります。今回は、BNT162b2 (Pfizer/BioNTeck)ワクチン接種に対する年齢依存性の免疫応答を考察したコホート研究(文献1)及び、BNT162b2とmRNA-1273 (Moderna)を比較した類似論文 (文献2) を紹介致します。


文献1.
Lisa Müller et al., Age-dependent immune response to the Biontech/Pfizer BNT162b2 COVID-19 vaccination, Clin Inf Dis 2021 Apr 27. Online ahead of print.


背景

COVID-19のワクチン接種が広汎におこなわれているが、ワクチン接種対象者の中で最も脆弱な80歳以上のグループで誘発された免疫応答に関する実生活データは、予防接種キャンペーンにおける高齢者の優先順位付けにもかかわらず、依然として過小評価されている。

目的

80歳以上の高齢者、60歳以下の若齢者におけるBNT162b2ワクチン接種(1回目、2回目)の抗体応答を比較するコホート研究を実施して、その年齢依存性を検討する。

結果

両群の大部分の参加者はSARS-CoV-2に対して特異的IgG抗体価を生成した。抗スパイクタンパク質は、高齢者の参加者で抗体価が有意に低かった。2回目の接種後の抗体レベルは高齢者の参加者で増加したが、この群の絶対平均抗体価は < 60群より低いままであった。2回目の接種後、高齢者の31.3%が若い群とは対照的に検出可能な中和抗体を有していなかった。

結論

BNT162b2ワクチン接種、特に高齢者グループにおける中和抗体の頻度が低い。これは、この集団を綿密に監視する必要があり、そしてより強力な長続きの免疫および感染に対する防御を確実にするために、ワクチンの接種回数、あるいは、接種量の増加を必要とすることを示唆している。

これらの結果には、ワクチンの種類が影響する可能性がありますが、ごく最近の論文(文献2)ではBNT162b2とmRNA-1273の効果を年齢別に比較しています。


文献2.
Nathan E Richards et al., Comparison of SARS-CoV-2 Antibody Response by Age Among Recipients of the BNT162b2 vs the mRNA-1273 Vaccine, JAMA Netw Open. 2021 Sep 1;4(9):e2124331.


背景・目的

2つのCOVID-19 mRNAワクチン、BNT162b2とmRNA-1273は臨床試験で強力な有効性を示し、FDAから緊急承認されたが、これまでに、抗体反応の直接評価はほとんどされていない。従って、本コホート研究では、いずれかのワクチンを2回接種(BNT162b2:n=79, mRNA-1273:n=88)し、2回目の接種から7~31日後に血液を採取し、SARS-CoV-2のスパイクReceptor Binding Domain (RBD)及びNucleocapsideに対するIgGを比較検討することを目的とした。

結果・議論

BNT162b2接種により、高齢者(50歳以上)及び若齢者(50歳未満)で比較的低いレベルの抗体誘発が認められた。これとは、対照的にmRNA-1273接種においては、高齢者及び若齢者ともに高レベルの抗体誘発が認められた。一つの可能性として、BNT162b2が30 μg、mRNA-1273が100 μgと異なる量のmRNAが用いられたことが考えられる。また、これまでの報告により中和抗体と抗RBD抗体は相関することが示されてきたので、本研究では中和抗体が測定されなかったが、厳密性を増すためには、中和抗体を測定するべきであった。

COVID-19は高齢者に重篤になりやすいことが知られていますが、以上の紹介論文を含め、これまでの報告から判断して高齢者は若齢者に比べてワクチンの免疫応答が低いことが懸念されます。このように、臨床的には、COVID-19は高齢者に厳しい疾患です。現代の我々は、コロナのパンデミックが太古の昔(少なくとも、数万年前)から起こり、それに適応進化して来た結果に直面しているわけですから、高齢者のCOVID-19に対する脆弱性が生物学的にどのような意味を持つのかを理解することは重要かも知れません。


文献1
Lisa Müller et al., Age-dependent immune response to the Biontech/Pfizer BNT162b2 COVID-19 vaccination, Clin Inf Dis 2021 Apr 27. Online ahead of print.
文献
Nathan E Richards et al., Comparison of SARS-CoV-2 Antibody Response by Age Among Recipients of the BNT162b2 vs the mRNA-1273 Vaccine, JAMA Netw Open. 2021 Sep 1;4(9):e2124331.