新型コロナ感染症(COVID-19)は呼吸器系だけでなく、全身に合併症が及びますが、脳神経系においては、中枢では、皮質下型の注意機能障害、高次脳機能障害、脳血管障害(脳卒中)などが知られており、多くの場合、COVID-19の重篤性に関連することが報告されています。また、末梢では、脳脊髄膜炎、多発性神経・心筋炎、臭覚・味覚障害、ギラン・バレー症候群など多彩な症状・疾患が知られています。今後、有効な治療薬を開発するためには、これらの病態のメカニズムをより深く理解することが必要です。今回は、患者(及び、対照群)の血液・脳脊髄液(CSF)の解析を通してこの問題にアプローチした報告(文献1)を紹介します。
COVID-19の合併症として多くの脳神経症状・疾患が知られているが、これらが、感染したSARS-CoV-2の直接の作用により引き起こされるのか、あるいは、全身性、又は、局所に由来する炎症誘発性因子・サイトカインが間接的に原因となるのかは漠然としている。
COVID-19の患者22人と対照疾患;炎症性神経障害(脳脊髄膜炎など)、非炎症系神経障害(脳卒中、偏頭痛、てんかんなど)、及び多発性硬化症の患者55人より血清・CSFを採取して、SARS-CoV-2 mRNAの定量的PCR、さらに、抗SARS-CoV-2抗体、49のサイトカイン・成長因子(Luminexによる解析)のコホート解析を行ない、有意な差が認められるか比較検討する。
以上の結果は、COVID-19患者のCSF中でSARS-CoV-2が複製して炎症性を起こす可能性は低いと思われる。COVID-19の重症患者のクモ膜下腔におけるCXCL8の産生(CSF)は、神経血管ユニットNVUの障害とのリンクを示唆している。
NVUは脳組織における基本構造であり、ニューロン・グリア細胞・血管・細胞外基質から構成され、脳の微小循環の維持・調節や様々な病態に大きく関与していると考えられ、脳の局所においては血液循環と脳の代謝が極めて密接に結びついています。すなわち、脳実質の神経細胞の活動性亢進は同部位に限局した血流量の増加を起こします。この神経活動と血液循環との、時間的・空間的に緊密な関係はNeurovascular Couplingと呼ばれ、その構成要素がNVUです
NVUは2001年に脳卒中の病態を明らかにするために提唱されましたが,現在、この概念は脳卒中という枠組みを超えて、さまざまな脳疾患領域の研究に応用されています。COVID-19でNVUの障害が起きると言うことは、当然ながら、COVID-19で多くの病態が促進されるということであり、NVUの保護がCOVID-19の一つの治療戦略として有効であると思われます。