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2021/10/5

納豆に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防・治療効果!?

文責:橋本 款

栄養面からのCOVID -19の予防は重要と思われますが、これまで、あまり研究対象になりませんでした。今回は、Bacillus属の菌で大豆を発酵させることによってできるペプチドがSARS-CoV-2とAngiotensin変換酵素II(ACE2)やToll-like受容体4(TLR4)との結合を阻害することをin silico(コンピューターによる解析)で示した論文(文献1)と納豆(大豆を納豆菌で発酵)の抽出液がin vitroでSARS-CoV-2と単純疱疹ヘルペスの感染を抑制することを示した論文(文献2)を紹介致します。これらの結果から、大豆の発酵食品がCOVID-19に対して予防・治療効果を持つことが予想されます。


文献1.
Srichandan Padhi et al., A Multifunctional Peptide From Bacillus Fermented Soybean for Effective Inhibition of SARS-CoV-2 S1 Receptor Binding Domain and Modulation of Toll Like Receptor 4: A Molecular Docking Study, Front Mol Biosci. 20218:636647.


背景

東アジアを中心に大豆を原料とした発酵の食文化が発達しており、特にインド北東部のシッキム州のキネマ(Kinema)という発酵食品は有名である。 Kinema由来のペプチドは、インフルエンザ、単純疱疹、肝炎、HIVなどのウィルス性疾患に効果があることから、COVID-19に対しても予防・治療効果があるかどうか興味深い。

目的

Kinema由来のペプチドにSARS-CoV-2のS1蛋白とその主な受容体であるACE-2の結合を阻害する効果の有無をin silicoで検討する。

方法

  • Bacillus・licheniformis KN1G、Bacillus・amyloliquefaciens KN2G、異なる株のBacillus subtilis(KN2B、及び、KN2M)で発酵させた大豆からLC-MS/MSで検出されたペプチドに対して、2つのwebサーバー(AVPpred、及び、meta-iAVP)を用いて抗SARS-CoV-2活性をスクリーニングした。
  • そのうち、44個のペプチドに関して、Molecular docking法により、S1蛋白の受容体結合領域との親和性をin silicoで評価した。

結果

  • Bacilluslicheniformis菌KN1Gで発酵して出来たKinemaから得られたペプチドALPEEVIQHTFNLKSQ(P13)がACE2のGLN493, ASN501に結合してSARS-CoV-2のS1蛋白とACE2の相互作用を阻害する可能性が示された。
  • SARS-CoV-2はサイトカインストームに重要な役割をするTLR4/ MD2複合体にも有意に結合することが示されているが、P13ペプチドは、TLR4にも結合してその機能を阻害することが示唆された。
  • HawkDockサーバーを用いたMM/GBSA法によりドッキングした複合体のエネルギー状態を評価した結果、P13ペプチドのうちGLU5, GLN8, PHE11, 及びLEU13のアミノ酸残基が受容体との結合に重要であり、同様に、TLR4/MD2のARG90, PHE121, LEU61, PHE126, 及び ILE94が強く関与していた。

結論

以上、Kinemaから調整されたP13ペプチドが抗SARS-CoV-2活性を持つことが示され、P13がCOVID-19の治療に使えるポテンシャルがあると考えられる。

日本の代表的な発酵食である納豆は、大豆を納豆菌(Bacillussubtilis natto)で発酵させたものです。
納豆の栄養価の高さから、COVID-19に対しても納豆の健康効果が期待されます。実際、次のような報告があります。

文献2.
Mami Oba et al., Natto extract, a Japanese fermented soybean food, directly inhibits viral infections including SARS-CoV-2 in vitro, Biochem Biophys Res Commun. 2021 Sep 17; 570: 21–25.


まとめ

納豆から調整した抽出液中のプロテアーゼがin vitroでSARS-CoV-2と単純疱疹ヘルペスのVero E6細胞への感染を完全に抑制した。納豆エクストラクトによる受容体結合蛋白(SARS-CoV-2)やglycoprotein D(ヘルペス)の蛋白分解がメカニズムの一つとして示された。

2つの論文は、詳細は異なりますが、いずれも、大豆の発酵食品により、SARS-CoV-2と受容体の結合が阻害されることを述べています。当然ながら、上記のようなin silico, in vitroで得られた結果はin vivoモデル、ヒトでの治験で検討する必要があります。長い道のりかも知れませんが、今後の発展が期待されます。


文献1
Srichandan Padhi et al., A Multifunctional Peptide From Bacillus Fermented Soybean for Effective Inhibition of SARS-CoV-2 S1 Receptor Binding Domain and Modulation of Toll Like Receptor 4: A Molecular Docking Study, Front Mol Biosci. 20218:636647.
文献2
Mami Oba et al., Natto extract, a Japanese fermented soybean food, directly inhibits viral infections including SARS-CoV-2 in vitro, Biochem Biophys Res Commun. 2021 Sep 17; 570: 21–25.