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2021/10/12

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの交差接種

文責:橋本 款

COVID-19の予防にワクチン接種が順調に進んでいますが、これまで、ワクチン接種に関連して明らかになった新たな課題のうちの一つに交差接種があります。原則、同じ種類のワクチンを2回接種することになっていますが、1回目にアナフィラキシーなど副反応が出た人は、2回目を打つ場合、異なるタイプのワクチンにした方が良いのかもしれません。そうでなくても、同じ種類のワクチンを2回打つ場合と異なるタイプのワクチンにする場合で、SARS-CoV-2に対する抗体の産生促進に差があるのかどうかを知ることは重要です。今回は、1回目と2回目で異なるワクチンを接種すると、1、2回目ともに同じワクチンを接種した場合に比べて、ワクチンの効果が増強した(中和抗体の産生が有意に促進された)という報告(文献1)を紹介致します。


文献1.
Matthias Tenbusch et al., Heterologous prime–boost vaccination with ChAdOx1 nCoV-19 and BNT162b2 , Lancet Infect Dis. 2021 Sep; 21(9): 1212–1213.


背景

AstraZenecaやJohnson & Johnsonのウイルスベクターを使ったワクチンを接種すると若い成人女性にごく稀に(1-2/100, 000)静脈血栓症が起きることが知られている。これらのワクチンは2回目にBioNTech-PfizerなどのmRNAワクチンでboostしたら効果的であったと言われているが、安全性、効率を含めて報告数はまだ少ない。

目的

ドイツでワクチンの接種を受けた人で、①1回目にAstraZeneca製のワクチン、2回目にBioNTech-PfizerのBNT162b2mRNAワクチンを接種した人、②1、2回目ともにBNT162b2mRNAワクチンを接種した人、③1、2回目ともにAstraZeneca製のワクチンを接種した人の3つのグループにおいて、ワクチン接種による抗体の産生促進能を比較・検討する。

方法

SARS-CoV-2に対する中和抗体を簡便かつ迅速に測定できるサロゲートウイルス中和検定法で測定する。(ウイルスのスパイクタンパク質から精製した受容体結合ドメインと宿主細胞の受容体、アンジオテンシン変換酵素IIを使って、酵素を結合させた免疫吸着検定用のプレートで、ウイルス–宿主の相互作用を模倣する。この相互作用は、従来のウイルス中和試験や偽ウイルスによるウイルス中和試験と同様に、患者や動物の血清中の特異的中和抗体によって阻害される)。

結果

1、2回目にAstraZeneca製のワクチン、BioNTech-PfizerのBNT162b2mRNAワクチンを接種した人は、1、2回目ともにBNT162b2mRNAワクチンを接種した人、または、1、2回目ともにAstraZeneca製のワクチンを接種した人に比べて、ウイルス中和抗体産生能は有意に増加していた。

結論

1、2回目に異なるワクチンを接種することは、静脈血栓症などの副反応を心配する人には良いオプションになる。また、ワクチン消費の偏りを避けることになる。さらに、異なるワクチンの使用の有効性、安全性に関するデータを得ることが望ましい。

  • 実際、異なるワクチンの使用;AstraZeneca製のワクチン/BNT162b2mRNAの有効性、安全性に関する治験は今年の7月の時点でPhase IIまで行なわれています(Borobia et al. Lancet. 2021)。
  • 3回目の接種も正式に決まったことから、交差接種についての組み合わせが少し複雑になるかも知れませんが、欧米諸国において許可が降りれば、我が国においても推奨される状況になると思われます。しかしながら、ウイルスの変異が絶えず起こる状況を考慮すれば、ワクチン接種方法の改良はあくまで途中経過であり、最終的には治療薬の開発が期待されます。

文献1
Matthias Tenbusch et al., Heterologous prime–boost vaccination with ChAdOx1 nCoV-19 and BNT162b2 , Lancet Infect Dis. 2021 Sep; 21(9): 1212–1213.