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一般向け 研究者向け
2021/10/19
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の抗体カクテル療法
文責:橋本 款
以前に「COVID-19の抗体治療」と題して新型コロナ抗体薬bamlanivimabが第III相試験において、単剤投与で発症予防効果が認められたという論文を紹介しましたが、変異を繰り返すウイルスに対しては、抗体が1種類だけでは期待する効果が得られにくいことから、2種の抗体の組み合わせが有効であると予想されました。今回はREGEN-COV(モノクローナル抗体カシリビマブとイムデビマブの混合静注薬、商品名:ロナプリーブ)がプラセボと比較して、外来患者のCOVID-19による入院/全死因死亡のリスクを低減するとともに、症状消退までの期間を短縮し、SARS-CoV-2ウイルスの量を迅速に低下させることが第III相試験で示されたという論文(文献1)を報告致します。
文献1.
Weinreich DM, et al., REGEN-COV Antibody Combination and Outcomes in Outpatients with Covid-19, N Engl J Med. 2021 Sep 29. [Epub ahead of print]
背景
抗体カクテルは単剤の抗体よりも治療効果が期待される。本研究は、COVID-19外来患者におけるREGEN-COVの有用性の評価を目的とする適応的デザインを用いた二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験である。これまで、第I~II相試験では、副作用無く、有意な治療効果が観察されている。
目的
今回は、外来患者4,000例の無作為化プラセボ対照第III相試験の初期結果を報告する。
方法
- 年齢18歳以上、COVID-19の重症化のリスク因子を1つ以上有するSARS-CoV-2陽性の非入院患者を対象にし、被験者は、いくつかの用量のREGEN-COVまたはプラセボを単回静脈内投与する群に無作為に分けられ、29日間、フォローアップした。
- 2020年9月24日~2021年1月17日の期間に米国とメキシコの施設で登録された4,057例を解析した。患者の年齢中央値は50歳、65歳以上が14%で、男性が49%、ヒスパニック系が35%を占め、重症化のリスク因子として、肥満(BMI≧30, 58%)、年齢50歳以上(52%)、循環器疾患(36%)が多かった。
- COVID-19による入院または全死因死亡をエンドポイントとし、症状消退までの期間、及び、安全性の評価を行なった。
結果
- 29日までの期間内の入院または全死因死亡は、REGEN-COV 2,400mg(カシリビマブ1,200mg+イムデビマブ1,200mg)群では1,355例中18例(1.3%)で、プラセボ群の1,341例中62例(4.6%)に比べ有意に低かった。
- 同様に、REGEN-COV 1,200mg(それぞれ600mg)群では736例中7例(1.0%)でCOVID-19による入院または全死因死亡が発生し、プラセボ群の748例中24例(3.2%)に比べ有意に低かった。
- 症状消退までの時間は、プラセボ群よりもREGEN-COV群(1,200mg、2,400mg)で短縮した(2つの用量群10日vs.プラセボ群14日、p<0.001)。
- ウイルス量は、プラセボ群に比べて2つの用量のREGEN-COV群とも減少した。
- 重篤な有害事象の頻度は、REGEN-COV 1,200mg群の1.1%、2,400mg群の1.3%とプラセボ群が4.0%に比べて低かった。
- REGEN-COの2,400mg投与は、2020年11月、軽症~中等症の高リスクCOVID-19外来患者の治療において、米国食品医薬品局の緊急使用許可(EUA)を取得しているが、本試験によって、1,200mgでもEUAが承認された。
結論
今回の結果から、REGEN-COVは、感染患者の重症化を防ぐことができ、COVID-19からの回復を早めると考えられる。
新しいCOVID-19治療薬の登場により感染患者の重症化を防ぎ、医療機関の負担が軽減されることが期待されます。論文中では触れられていませんが、抗体カクテル療法の費用はかなり高額になるのが気になるところです。
- 文献1
- Weinreich DM, et al., REGEN-COV Antibody Combination and Outcomes in Outpatients with Covid-19, N Engl J Med. 2021 Sep 29. [Epub ahead of print]