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2021/11/16

新型コロナウイルス感染症ワクチン接種とギラン・バレー症候群

文責:橋本 款

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するAd26.COV2.Sワクチン(Johnson & Johnson社)の接種により、ギラン・バレー症候群(GBS)の発症リスクがわずかではあるものの統計学的に有意に高くなることが示されました(文献1)。四肢の脱力、しびれ感が急速に全身に広がり進行するGBSは、一般的には風邪や下痢などの症状が発症もとですが、インフルエンザやポリオなどのワクチン接種や、インターフェロン製剤、ペニシラミン、ニューキノロン系抗菌薬、抗ウイルス薬、抗がん剤などの医薬品による副作用で発症することもあります。末梢神経への攻撃を受けても、多くの場合、一過性で終わりますが、ダメージが強い場合は重症になり、完治に時間がかかったり後遺症が残ったりすることもあります。


文献1.
Emily Jane Woo et al., Association of Receipt of the Ad26.COV2.S COVID-19 Vaccine With Presumptive Guillain-Barré Syndrome, February-July 2021.JAMA. 2021 Oct;326(16);1606-1613.


背景

米国食品医薬品局(FDA)は、COVID-19ワクチン接種後の調査で、Ad26.COV2.Sワクチン(Johnson & Johnson製)の接種によりGBSの発症リスクが高まることに懸念を示していた。

目的

ワクチン有害事象報告システム(VAERS)のデータ(2021年2月から7月)を解析し、Ad26.COV2.Sワクチン接種後に発生したGBSと推定される症例を特定し、患者の背景、臨床所見ならびに関連病歴などについて調査することを目的とした。

方法

報告率を推定するとともに、ワクチン接種データと自然発生率の公表データを用いて、年齢で層別化したワクチン接種後21日および42日のリスク期間でO/E(observed to expected)解析を行った。O/E解析では、自発的な報告による観察値と、標準化された症例定義に基づいて推定・公表された一般集団のワクチン未接種者におけるGBSの自然発生率に基づく期待値の率比を解析した。

結果

2021年7月24日時点で、VAERSにおいてAd26.COV2.Sワクチン接種後のGBS発症の報告は推定130例確認された。年齢中央値は56歳、65歳未満が111例(86.0%)、男性が77例(59.7%)であった。ワクチン接種後発症までの期間中央値は13日(10~18日)で、105例(81.4%)が21日以内、123例(95.3%)が42日以内に発症した。121例(93.1%)は重篤で、1例は死亡した。

米国成人におけるワクチン接種回数は約1,320万9,858回であることから、粗報告率は接種10万回当たり約1例と推定された。42日間における全体の推定率比は4.18(95%信頼区間[CI]:3.47~4.98)となり、18歳以上の成人を対象とした最悪シナリオ解析の場合、推定絶対頻度として10万人年当たり6.36の増加に相当した(自然発生では10万人年当たり約2、ワクチン接種後は10万人年当たり約8.36[147万2,162人年で123例の報告に基づく])。いずれの期間においても、18~29歳を除くすべての年齢層で上昇していた。

結論

COVID-19に対するAd26.COV2.Sワクチン(Johnson & Johnson製)の接種により、GBSの発症リスクがわずかではあるものの統計学的に有意に高まることがわかった。しかしながら、受動的な報告システムと推定症例の定義の限界があり、確定診断を下すための医療記録の分析が必要である。

COVID-19ワクチン接種後のGBSの発症率は、10万人当たり約1人で、アナフィラキシーショック約5人/100万人より若干多い程度ですが、自然発生率と比較しても、ワクチン接種後の報告例の方が約3~4倍多いので、ごく稀に起こることを知っておいた方がよいと思われます。実際、日本でも75件のGBSの疑いが報告されているようです。


文献1
Emily Jane Woo et al., Association of Receipt of the Ad26.COV2.S COVID-19 Vaccine With Presumptive Guillain-Barré Syndrome, February-July 2021.JAMA. 2021 Oct;326(16);1606-1613.