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一般向け 研究者向け
2021/12/7
ミュー変異株; COVID-19中和抗体に対する高い抵抗性
文責：橋本 款
新型コロナウイルス-19（COVID-19）の変異株の一つであるミュー変異株（B.1.621系統）は、コロンビアで2021年1月に初めて検出され、WHO（世界保健機構）に定められたVOC（懸念される変異株）が有するE484K, N501Y, P681H等の変異を有することから、感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念されています。地域的には、2021年8月30日の時点で南米諸国など39ヵ国から検出されています。ミュー株について、WHO、欧州CDC（疾病対策予防センター）はVOI（懸念される変異株）に位置付けています。今回は、ミュー株が、COVID-19に感染した人およびワクチン接種した人の血清に含まれる中和抗体に対し、きわめて高い抵抗性を示したことが示された論文を報告致します（文献1, 2）。
文献1.
Uriu K, et al., Neutralization of the SARS-CoV-2 Mu Variant by Convalescent and Vaccine Serum., N Engl J Med 2021 Nov 3.[Epub ahead of print] 
目的
ミュー変異株の感染・伝播性の増加を評価することは極めて重要である。
方法
本試験では、ミュー株のスパイクタンパク質を有するシュードウイルス＊と、従来株の新型コロナウイルスに感染した人の回復後の血清（13例）、およびファイザー製ワクチン接種を完了した人の血清（14例）を用いた中和試験を実施した。
＊新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を被り、レポーター遺伝子を保有する擬似ウイルス
結果
その結果、ミュー株は従来株に比して、感染者が持つ中和抗体に対して10.6倍、ファイザー製ワクチン接種者が持つ中和抗体に対して9.1倍の抵抗性を示した。
結論
- これにより、ミュー株はベータ株よりも高い抵抗性を有する、既存の変異株の中で最も抵抗性の高い変異株であることが明らかとなった
- しかしながら、ワクチンは、血液中への中和抗体の産生だけではなく、細胞性免疫や免疫の記憶を構築することにより、複合的に免疫力を獲得するために接種するものであり、中和抗体が充分な効果を発揮できないとしても、ワクチン接種による感染予防効果、重症化を防ぐ効果は、ミュー株に対しても十分に発揮されるものと思われる
ほぼ同様の査読前のプレ・プリントがあります。
文献2.
Miyakawa, K. et al., Neutralizing efficacy of vaccines against the SARS-CoV-2 Mu variant. medRxiv 2021.09.23.21264014;
要約
- ファイザー製ワクチンの中和試験を実施した結果、μ株（ミュー変異株）は、既存の変異株（α, β, γ,δ, λ）と比べて、最も抵抗性の高い変異株であることが示された。
- さらに、μ株はδ株と同様に、細胞間融合効果（変異株がワクチンによる免疫を逃避するメカニズムの一つ）を有することがわかった。
- 既存の変異株の中で最も抵抗性の高い変異株であることが明らかとなった。
- しかしながら、ミュー株に対しても、ワクチン接種による感染予防効果、重症化を防ぐ効果を否定するものではない。
公的データベースであるGISAIDの登録情報によれば、ミュー株は世界的には5月から検出割合が増加したが8月から減少傾向にあることがわかっています。我が国では、検疫では、2例（最終検出日：2021年7月5日）が検出されているが、国内での検出は無いことから、ミュー株が国内で拡大するリスクは現状において低いと考えられています。
ほっとしたのも束の間、御存知のように、WHOは26日、南アフリカで新たに見つかった新たなコロナウイルス変異株を最も警戒レベルが高いVOCに分類し、「オミクロン型」と名付けました。オミクロン株に関しては、現在は、まだ、ネットや新聞などによる情報しかないことから、科学的な論文が発表された時点で取り上げたいと思います。
- 文献1
- Uriu K, et al., Neutralization of the SARS-CoV-2 Mu Variant by Convalescent and Vaccine Serum., N Engl J Med 2021 Nov 3.[Epub ahead of print]
- 文献2
- Miyakawa, K. et al., Neutralizing efficacy of vaccines against the SARS-CoV-2 Mu variant. medRxiv 2021.09.23.21264014;
