2021/12/14
以前にミクログリアの炎症を制御するOAS1遺伝子の一塩基多型が弧発性アルツハイマー病(AD)と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化にリンクすることを示した論文を報告しましたが、最近は、COVID-19とADの関係を分子レベルで解析した論文が目立つようになりました。アンジオテンシン変換酵素II(ACE2)は、レニン・アンギオテンシン系の調節だけでなく、SARS‐CoV‐2の受容体として作用することが知られていますが、今回は、γ-セクレターゼ(プレセニリン1/-2)がACE2を分解することを示した論文(文献1)に焦点を当てます。家族性ADの多くが、γ-セクレターゼの遺伝子変異によりアミロイドβ(Aβ)の産生が増加することが原因と考えられていることから、家族性ADとCOVID-19の関係が示唆されます。
I型膜通過型蛋白であるACE2は、SARS‐CoV‐2の受容体として作用することが知られているが、興味深いことに、その構造は、APP、Notchなどのγ-セクレターゼ(プレセニリン1/-2)の基質と類似している。したがって、ACE2もγ-セクレターゼの基質ではないかと推定されるが、本研究はこの仮説を証明することを目的とする。
MEFs (Presenilin1/2 double KO, Nicastrin KO), 293T, Caco-2, VeroE6などの培養細胞の系において種々の分子生物学的手法により、ACE2がγ-セクレターゼの基質として分解されることを示した。また、SARS-COV-2の偽ウイルスの細胞内移入がγ-セクレターゼの阻害剤により影響を受ける可能性を検討した。
γ-セクレターゼ阻害剤がSARS‐CoV‐2の細胞内侵入に影響を及ぼすという結果は得られなかったので、すぐに治療に結びつくという訳では無いが、ACE2の細胞内におけるトラフィッキングの理解に繫がると思われる。
ACE2がCOVID-19のSARS‐CoV‐2の感染に重要で、治療の標的の一つになると考えられることからも、この分野の研究は多く行なわれており、以下のような総説(文献2)もあります
進化的な視点から見れば、家族性ADにリンクしたγ-セクレターゼの遺伝子変異がAβのprotofibrilsによるevolvabilityを増加させ、SARS‐CoV‐2感染によるストレスに対する抵抗性が増す適応進化が起き、agingにおいて、antagonistic pleiotropyとしてADが生じたのではないかと推測しますが、今後の研究の展開が楽しみです。