2021/12/27
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、野生型および変異体ともに、細胞膜上のアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体を介して細胞内に侵入し、その後、細胞内で自己複製することで増殖し、感染を引き起こすことがよく知られています。しかしながら、SARS-CoV-2の細胞内侵入には、ACE2に加えて、SARS-CoV-2が他の細胞表面分子にも結合して細胞侵入します。中でも、ニューロピリン(NRP)1、-2は、SARS-CoV-2 Sタンパク質の切断型に結合して、宿主細胞の侵入を仲介することが知られていますが、NRPは神経で発現しているため、SARS-CoV-2の神経系への侵入を許します。今回は、初期中期のアルツハイマー病(AD)に比べて進行期のADにおいて、NRP1の発現が増加していることを示した論文(文献1)を報告致します。治療に繫がる可能性もあるので興味深いところです。
著者らのグループや他のグループは、最近、ACE2の発現がAD脳において増加していることを報告したが(Ding, Q. et al. bioRxiv [Preprint] (2020)., Rahman, M. A., et al. Mol. Neurobiol. 2020). Lim et al. J Infect 2020)、NRP1に関してもACE2と同様に、その発現がAD脳において増加しており、 SARS-CoV-2のNRP1を介した感染性がADの進行を促進するのではないかと仮定し、これを証明することを目的とした。
ADのマウスモデル(5×FAD)の脳、白血球を用いてハイスループットRNAシーケンシングを行ない、脳に発現したNRP1の定量化に関しては、ウェスタンブロッティング、及び、リアルタイム定量化RT-qPCRにより解析した。AD患者におけるNRP1のin silico analysis(コンピューターによる解析)には、ヒト海馬データセットを用いて行なった。多くの重篤なCOVID-19患者は、糖尿病、変性疾患、脳機能障害などの合併症を持った高齢者のグループに集中していた。
トータルRNAシーケンシングの結果は、NRP1mRNAがADモデルに共通して過剰発現していることを示していた。ACE2と同様に、NRP1蛋白はAD脳組織に強く発現していた。興味深いことに、in silico analysisの結果はNRP1のレベルが年齢とADの進行度で際立っていることを示した。
NRP1の発現がAD脳において強発現していることは、NRP1がADにおけるSARS-CoV-2の感染の危険因子となることを理解することが重要である。したがって、 SARS-CoV-2の感染を抑制する治療薬の開発に繫がる可能性がある。