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2022/1/4

オミクロン株の初期研究

文責:橋本 款

昨年後半に南アフリカで確認された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン株の感染は、あっという間に世界的に拡大しました。ただ、症状は相対的に軽く、死者数は抑えられたままで、すでに感染の主流がオミクロン株に置き換わった地域でもその傾向は変わっていません。日本でも市中感染が確認されるようになり、新年は不安な日々が続きますが、オミクロン株を正確に理解することは予防戦略を練る上でも重要です。オミクロン株に関しては、ネットなどで情報が錯綜していましたが、ようやく科学論文が出始めました。今回は、SARS-CoV-2のワクチンを既に2回接種した人や感染後の回復期にある人の血液中に含まれるオミクロンに対する中和抗体の力価は、デルタ株などの従来の株に対する力価に比べて有意に低下していることなど、基本的なオミクロン株の特徴を示した論文(文献1)を報告致します。


文献1.
Wanwisa Dejnirattisai et al., Omicron-B.1.1.529 leads to widespread escape from neutralizing antibody responses, bioRxiv, 3 December 2021


背景・目的

  • SARS-CoV-2のワクチンを2回接種した人や既に感染後(アルファ、ベータ、ガンマ)の回復期にある人の血液中に含まれるオミクロンに対する中和力価は、デルタ株などの従来の株に対する力価に比べて有意に低下していた。
  • オミクロンにおける変異はSARS-CoV-2に対する既存の、あるいは、市販用の開発途中にある大部分のモノクローナル抗体に対して中和力価を減弱することが示された。
  • 血液中のオミクロンに対する中和力価は、ワクチンを3回接種した人やデルタ株に感染後の人の血清で上昇していた。

結論

  • 以上の結果は、in vitroで行なわれたものであり、必ずしも、ヒトにおける状況を反映するものではない。
  • しかしながら、特にオミクロンの感染力が高いことを示す証拠がみられる中、ブースター(追加免疫)接種の必要性を強調する他の調査結果とも合致している。
  • オミクロンのS変異による構造の変化がいくつか組み合わさることにより、SARS-CoV-2とACE2などの受容体との結合の親和性が増加することにより免疫逃避し、SARS-CoV-2の進化を促進することに繫がるのではないかと考えられる。
  • オミクロン株は感染者数こそ多いですが、他の報告などにおいても入院数などの指標をみると、デルタ株に比べ重症化する例は多くありません。『重症度の低いオミクロン株に置き換わる』なら、それが望ましいと思われます。
  • 現時点においてオミクロン株に関する論文はまだ初期研究で、この論文を含めて、多くの場合、査読がされていません。したがって、これらの結果は慎重に受け止めて、結論を出すには、サンプル数を増やし、多角的視点からデータを蓄積することが必要です。

文献1
Wanwisa Dejnirattisai et al., Omicron-B.1.1.529 leads to widespread escape from neutralizing antibody responses, bioRxiv, 3 December 2021