※世界各国で行われている研究成果をご紹介しています。研究成果に対する評価や意見は執筆者の意見です。
一般向け 研究者向け
2022/1/11
南アフリカ共和国におけるオミクロン株感染による入院患者の解析
文責:橋本 款
年が明けて間もない今、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する最大の興味は言うまでもなくオミクロン株に関するものでしょう。オミクロン株はその変異の多さを反映して感染力が高く、国内・外を問わず、これまでに経験したことのないスピードで広がっています。いずれ我々の多くが感染することになるでしょうが、デルタ株などのこれまでの株に比べて、重症度が低いのでパニックになる必要はないかも知れません。しかしながら、まだ、不明な点も多く、基本的な理解を増すことが重要です。したがって、今週もオミクロン株に関する論文(文献1)に焦点を当てます。最近になって、ようやく、査読を経た論文が掲載されるようになりました。
文献1.
Caroline Maslo et al., Characteristics and Outcomes of Hospitalized Patients in South Africa During the COVID-19 Omicron Wave Compared With Previous Waves, JAMA. Published online December 30, 2021.
背景・目的
オミクロン株(B.1.1.529, variant of concern)はスパイク部分に多くの変異があり、感染力が高くワクチンの効果をすり抜けて広がる可能性が高い。南アフリカ共和国はオミクロン株を含め、これまで4つのCOVID-19感染の波(第1波:祖先の変異株、第2波:ベータ株、第3波:デルタ株、第4波:オミクロン株)を経験してきたが、オミクロン株による第4波を過去の波とSARS-CoV-2陽性の入院患者において比較検討する。
方法
Netcareは南アフリカ共和国を本拠地として私立病院経営、緊急医療、緊急移送サービス(49の病院、>10 000床)などをしている公開株式会社であるが、4つのCOVID-19感染の波において、地域社会のSARS-CoV-2の陽性率が26%になった時までの期間におけるSARS-CoV-2陽性の入院患者の特徴、酸素供給、人工呼吸器の必要性、ICUへの入院、入院期間、死亡率などを電子管理システムより抽出した。尚、Netcareは入院時のトリアージを決めるため、qRT-PCR, 迅速抗原テストによりSARS-CoV-2の感染状況を診断している。各感染波におけるカテゴリ変数をχ2試験と連続型変数(ANOVA)を用いて比較した(有意差: 5%)。
結果
- 各感染波の期間内において処置した患者数は異なった。例えば、第3波(デルタ株)における患者数は6,342名でそのうち68-69%が、第4波(オミクロン株)における患者数は2,351名でそのうち41.3%が緊急入院した。
- 第4波で入院した患者の平均年齢は36歳と若く(第3波は59歳)、女性の割合が多かった。第4波においては、併存疾患のある患者は少なく、急性呼吸器疾患を呈する患者も少なかった。
- 第4波で17.6%、第3波で74%の患者が酸素供給、人工呼吸器を必要とした。そのうち、第4波で18.5%、第3波で29.9%がICUへ入院した。
- 入院期間は、第3波で7-8日、第4波で3日と減少した。また、第1波で19.7%、第3波で29.1%あった死亡率は第4波で2.7%まで減少した。
結論
今回の解析にはいくつかの限界があるが、南アフリカ共和国におけるオミクロン株による第4波においては、これまでの第1-3波に比べて、より若年層に多く、併存疾患、急性呼吸器疾患は少なく、入院期間は短く、重症化は少なく、致死率は低いと思われた。
- オミクロン株は感染力が高く、患者数が多いですが重症化する例は多くないようです。しかしながら、全体の患者数が多くなれば、当然、重傷者数も多くなり入院患者数は増えますから、医療逼迫に繫がる可能性はあります。
- 南アフリカ共和国は黒人が8割近くを占める多民族国家です。筆者の世代ですと南アフリカ共和国と言えばアパルトヘイト(人種隔離政策)を連想しますが、この論文中には人種別に関する記述・データがありません。COVID-19の特徴の一つに民族差がありますから重要だと思いますが、黒人は貧困率が高く、入院・治療が受けられないので論文中に反映されないのではないかと懸念されます。
- 文献1
- Caroline Maslo et al., Characteristics and Outcomes of Hospitalized Patients in South Africa During the COVID-19 Omicron Wave Compared With Previous Waves, JAMA. Published online December 30, 2021.