2022/1/25
統合失調症など重度の精神疾患を有する患者さんは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患しやすく、また死亡率が高いことが知られており、COVID-19ワクチン接種においては接種優先順位の上位に位置づけられています。精神疾患がCOVID-19の危険因子となるメカニズムはまだ証明されていませんが、年齢や性差の他に呼吸器疾患、心血管系疾患、喫煙、肥満等の合併症が多く見られること、また、抗精神病薬がこうした合併症や免疫不全を惹起する可能性があることなどが想定されていますが、はっきりと示されていません。今回は、UKバイオバンクのデータを用いたコホート研究により、重度の精神疾患患者さんにおけるCOVID-19関連の感染、入院、そして、死亡率を包括的に調査した論文(文献1)を紹介致します。
統合失調症、双極性障害、および、大うつ病性障害を持つ人々は、COVID-19に罹患しやすく,また死亡率が高いことが知られているので、包括的に研究する必要がある。
UKバイオバンクのデータを用いたコホート研究によって、重度の精神疾患におけるCOVID-19感染、入院および死亡の格差を検討する。
UKバイオバンクから抽出した44万7,296例(統合失調症:1,925例、双極性障害:1,483例、大うつ病:4万1,448例、重度の精神疾患でない対照群:40万2,440例を対象とし、医療および死亡に関する記録とリンクさせ、多変量ロジスティック回帰分析により、診断とCOVID-19関連アウトカムとの違いを、また、社会人口統計学的要因および併存疾患で調整した場合においても検討した。
調整前の分析では、重度の精神疾患患者は、対照群と比較しCOVID-19関連の死亡リスクのオッズ比(OR)が高かった。また、重度の精神疾患患者は、COVID-19の感染や入院リスクも高かった。
調整後の分析では、死亡リスクと入院リスクのORは、重度の精神疾患患者において有意に高かったが、感染リスクのORは、大うつ病のみ有意に高いままであった。
統合失調症、双極性障害、大うつ病などの重度の精神疾患を有する患者さんでは、COVID-19関連の感染、入院、そして、死亡リスクが上昇していたが、これらが既存の人口統計学的要因や併存疾患などの危険因子によって説明できるのは一部分であり、別のメカニズムが介在すると推定された。したがって、重度の精神疾患を持つ患者さんに対しては、ワクチン接種や予防措置を優先するべきであると考えられた。
現時点において、精神疾患がどのようにしてCOVID-19の危険因子となるのかは明らかとは言えませんが、これを明確にして、メカニズムに基づいた合理的な治療を行なう必要があります。また、統合失調症の患者さんは高齢になると認知障害を発症することが知られていますが、最近はCOVID-19と認知症の関連性を述べた報告が多い事から判断すれば、精神疾患、認知症、COVID-19の三者は互いに関連している可能性があります。