※世界各国で行われている研究成果をご紹介しています。研究成果に対する評価や意見は執筆者の意見です。
一般向け 研究者向け
2022/2/8
妊婦のCOVID-19ワクチン接種；スコットランドの追跡調査
文責：橋本 款
妊娠中は、高血圧や糖尿病などのメタボリック症候群に類似した病態が多く、妊婦におけるCOVID-19の危険性は広く認識されていました。それにもかかわらず、ワクチン臨床試験では妊婦が除外されており、ワクチン接種開始時点では妊婦ワクチン接種方針に必要な裏付けが不足していました。また、胎児や新生児の周産期死亡がワクチン接種で生じ易くなるのではないかという不安もありました。今回、御紹介する論文では、英国・スコットランドのおよそ9万人の（国レベルの）追跡調査により、妊娠中の新型コロナウイルス（SARS-CoV-2）感染は妊婦自身や赤ちゃんを害し、妊婦がワクチン非接種だと危険性が増すことが示されました(文献1)。したがって、妊婦のワクチン接種は強く推奨されています。この問題の重要性を反映して、Nat Med.の論文(文献1)はScienceでも取り上げられています(文献2)。
文献1.
Stock SJ,et al., SARS-CoV-2 infection and COVID-19 vaccination rates in pregnant women in Scotland, Nat Med. 2022 Jan 13
背景・目的
COVID-19ワクチン接種の妊婦への影響は重要な問題であるが、これまでの報告は小～中規模であり、包括的な全人口データレベルで解析する必要がある。
方法
EAVE II (Early Pandemic Evaluation and Enhanced Surveillance of COVID-19)のサブスタディであるThe COVID-19 in Pregnancy in Scotland studyは、2020年3月1日に妊娠していた、あるいは、それ以降に妊娠した女性のスコットランド住民に対するワクチン接種の影響を国レベルの前向きコホートで評価した。
結果
- スコットランドでCOVID-19ワクチン接種が始まった2020年12月8日以降に妊娠したそれら妊婦8万7,694人のうち2021年10月末までにその接種を1回は済ませていたのは2割ほどの1万8,457人のみだった。
- 結局、2回のCOVID-19ワクチン接種を済ませて出産した妊婦の割合は3人に1人足らずの32.3％（1,311/4,064人）であった。スコットランドの一般人口の出産適齢（18～44歳）女性の8割近い77.4％が2021年10月31日までに2回のワクチン接種済みであることを考慮すれば、妊婦はCOVID-19ワクチン接種を躊躇する傾向にあると思われた。
- 本研究で、調べた妊婦のうちSARS-CoV-2感染開始から日が浅い間（28日以内）に出産した620人中14人の胎児や新生児が死亡し、それらの死亡のすべてはSARS-CoV-2感染判明時にCOVID-19ワクチン非接種の妊婦に生じていた。
- また、ワクチン非接種の妊婦のSARS- CoV-2感染は死産だけでなく、早産や普通より小さな赤ちゃん（Small for gestational age）の出産により陥りやすいことがわかった。
- さらに、妊娠中にSARS-CoV-2感染して集中治療（intensive critical care）が必要になった女性の98％がワクチン非接種であった。また、入院が必要になったSARS-CoV-2感染陽性の妊婦もほとんど（91％）がワクチン非接種だった。
結論
今回得られた結果から判断すると、妊婦のワクチン接種は妊婦自身と赤ちゃんをCOVID-19から守るのに不可欠であると思われた。
- 時期的に判断して、上記の論文は、デルタ株あるいはそれ以前のタイプの株による影響の結果であると思われます。しかしながら、オミクロン株についても3回目のワクチン接種が推奨されるべきでしょう。
- 現時点で、妊娠中におけるSARS-CoV-2への感染の出産後の影響の有無は明らかでないので、長期的な視野で（生涯）フォローアップすることが必要であると思われます。
- 文献1
- Stock SJ,et al., SARS-CoV-2 infection and COVID-19 vaccination rates in pregnant women in Scotland, Nat Med. 2022 Jan 1
- 文献2
- Meredith Wadman, COVID-19 starkly increases pregnancy complications, including stillbirths, among the unvaccinated, Scottish study shows, Science 2022
