2022/2/15
新型コロナ感染症(COVID-19)における最大の問題点は、言うまでもなく、新たな遺伝子変異を持った変異株が出現し、新たなパンデミックが繰り返されることです。幸運にも、ワクチン接種を複数回行なうことにより、この問題を乗りきって来ましたが、残念ながら、今後の見通しが立っているとは言えません。そこで、最近、進められている戦略の一つは、全ての変異株に有効なユニバーサルワクチンの開発です。このほど、オミクロン株を含む全ての新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株に有効なワクチン開発に向けた研究がヒト以外の霊長類を用いた前臨床的な段階において成功したことが「Science Translational Medicine」に発表されましたので(文献1)、御報告致します。
繰り返す新たな変異株によるCOVID-19のパンデミックに対して全ての変異株に有効なユニバーサルワクチンを開発するのが望ましい。これに関連して、自己集結するナノ粒子からなるワクチンは、多価の抗原提示ができるために単価の抗原提示しかしないワクチンに比べて免役原生を高めることが、これまでの細胞や動物実験において示されて来た。
Th1バイアス型CD4陽性ヘルパーT細胞の応答と、SARS-CoV-2野生株、及び、懸念されるSARS-CoV-2変異株(WA1, B1.1.7, B1351, B1617.2)ならびに、SARS-CoV-1に対する中和抗体が誘導されたことが確認された。また、アカゲザルのウイルス負担量は減少し、肺・気管支の病理像はワクチン投与量に依存して有意にプロテクトされていた。
新たな変異株がパンデミックを引き起こすのはSARS-CoV-2に限った事でなく、御存知のように、ほぼ毎年のようにインフルエンザウィルスで経験されて来ました。これを反映して、フェリチンナノ粒子をベースにしたH2インフルエンザウィルスワクチン(H2HA-Ferritin)が先行しており、第I相試験を無事に終えた事が、つい最近のNature Medicineでも取り上げられています(文献2)。
H2HA-Ferritinの安全性・認容性が第1相試験(健常人、18~70歳、n=50)で確認された。このワクチンにより、グループ1インフルエンザウィルスに属する(H1, H5)サブタイプにも中和抗体を誘導することが示された。
全ての変異株に有効なユニバーサルワクチンは理想的ですが、臨床使用に耐え得るほどのものが得られるかどうか、また、長期的にその有効性が保たれるかわかりません。したがって、現時点では、あらゆる方面から、特にメカニズムに基づいた治療開発を進める必要があるでしょう。