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2022/2/21

オミクロン(Omicron)株の亜種

文責:橋本 款

我が国において、昨年の暮より始まった新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン(Omicron)株による急激な感染者数の増加(いわゆる“第6波”)が今年の2月に入って減少傾向に転じたことから、ようやくピークを越えたのではないかと考えられています。しかしながら、このまま沈静化するかはわかりません。実際、いくつかの懸念材料があり、その一つがOmicron株(VOC lineage B.1.1.529)の亜種(subtype)の問題です。諸外国の多くで、Omicron株BA.1が BA.2に置き換わった事が報告されている(図1)ことを考慮すれば、我が国においても、今後、BA.2など別のsubtypeが優勢になる可能性があることを認識しておく必要があります。そこで、今回は、デンマークにおいて、世帯ごとのBA.1とBA.2の伝染性を国レベルで解析した論文(文献1)を紹介致します。


文献1.
Lyngse F.P. et al., Transmission of SARS-CoV-2 Omicron VOC subvariants BA.1 and BA.2: Evidence from Danish Households. Nat Med. 2022 Jan 13


背景・目的

Omicron株は遺伝的に異なる数種類のsubtypeからなることが知られているが、デンマークを含む数カ国においては、BA.2がこれまでのsubtype BA.1を急速に凌駕して優勢になってきたので、BA.2の高い伝染性に関する理解を深める必要がある。

方法

2021年12月後半から、2022年1月初旬までの、デンマークにおける世帯ごとのBA.1とBA.2のsubtypeの伝染性に関して、国レベルで評価した。

結果

  • 家庭内感染が最初の感染と推定された、8,541世帯のうち、BA.2によるものは2,122世帯であった。
  • 17,945人の家庭内感染のうち5,702人が1~7日以内に家族から2次的に感染したと思われた。そのうち、Omicron BA.1、及び、BA.2は、それぞれ、29%、39%であった。
  • 家庭内2次感染者におけるBA.1に対するBA.2のオッズ比*1は、COVID-19ワクチン接種をしていない人は2.19(95%-CI:1.58-3.04)、ワクチン接種をした人は2.45(95%-CI:1.77-3.40)、3回目のブースター接種をした人は、2.99(95%-CI:2.11-4.24)であった。すなわち、BA.2は BA.1に較べて、家庭内の2次感染力が強かった。
  • 見方を変えると、家庭内でワクチン接種をしていない人から感染した場合のBA.1に対するBA.2のオッズ比は、2.62(95%-CI:1.96-3.52)であったが、ワクチン接種をした人、及び、ブースター接種をした人から感染したBA.1に対するBA.2のオッズ比は、いずれも1.0よりも低かった。すなわち、ワクチン接種による家庭内感染の予防はBA.1に較べてBA.2により有効であると推定された。

結論

以上の結果より、家庭内における伝染性はBA.2がBA.1よりも有意に高いが、ワクチン接種、及び、ブースター接種*2をした人からは家庭内におけるブレークスルー感染*3は増加しないと思われた。

用語の解説

*1. オッズ比、95%-CI
  • オッズとは、統計学の「見込み」のことで、ある事象が起きる確率pの、その事象が起きない確率(1−p)に対する比を意味する。オッズ比とは二つのオッズの比のことである。
  • 95%-CIとは、繰り返し信頼区間(confidence interval; 統計学で母集団の真の値が含まれることが、かなり確信できる数値範囲のことである)を求めたときに95%の確率でこの範囲に真値が存在することを意味する。
*2. ブースター接種
ブースター(booster)は増幅器を意味する。本来のブースター接種の意味とは「ワクチン接種や病気にかかって免疫をすでに持っている人」が、更にワクチンを接種することで追加免疫を得ることを言う。COVID-19のワクチンで主流なファイザー製・モデルナ製は「2回目の接種を行うことで、抗体量が増え安定した効果が得られる」とされている為、2回目の接種完了までが1セットで、そこからの追加接種(3回目)を「ブースター接種」と呼ぶ。
*3. ブレークスルー感染
COVID-19のワクチンの場合では、2回目の接種を受けてから2週間くらいで十分な免疫の獲得が期待されますが、それにもかかわらず、それ以降に感染した場合に「ブレークスルー感染」と呼ぶ。

今回の論文のポイント

  • 今回、紹介致しました論文のように、BA.2の感染力は従来型BA.1より高く、すでにデンマークではBA.2が優勢になっていますが、重症者の増加は見られず、ICU入室者は減少しつつあることから、BA.2は、拡散は速いものの、ワクチンは有効であり、これまでよりも致死性の高い変異株というわけではないと考えられています。米国では、Omicron株のsubtypeが100件ほど確認されたことを受けて、すでに従来型に感染した人にはある程度の免疫があるとして急拡大しないだろうとの見解が報じられました。
  • しかしながら、現時点でOmicron株のsubtypeに関しては、統一した見解が得られたわけでないので、注意して見守る必要があります。

文献1
Lyngse F.P. et al., Transmission of SARS-CoV-2 Omicron VOC subvariants BA.1 and BA.2: Evidence from Danish Households. Nat Med. 2022 Jan 13