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2023/3/28

コロナ関連死亡に対する2価ワクチンブースター接種の抑制効果

文責:橋本 款
図1.

2019年12月に新型コロナ感染症(COVID-19)が中国の武漢で勃発して以来、すでに3年以上経過しました。この間、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は変異を繰り返して、世界的なパンデミックを引き起こしましたが、その都度、ワクチンなどの予防治療により乗り越えて来ました。この様にワクチンの重要性が確立されてきたにもかかわらず、最近の、ワクチンの接種率の低下(図1)は懸念されます。これには、コロナ慣れ*1、現在、流行しているオミクロン株の重症化・致死率が軽いこと、及び、ワクチン接種に伴う副反応などいくつか要因が考えられます。しかしながら、これまでの1価ワクチンには、COVID-19に対する予防効果、特にコロナ関連死亡の抑制が観察されたことから、最近の2価ワクチンブースター接種のコロナ関連死亡に対する抑制効果を評価することは重要です。この様な背景で、最近、米国疾病予防管理センター(CDC)は、デルタ株からオミクロン株BA.4/BA.5流行期*2 にかけて、ワクチンの接種者と未接種者の比較調査を行ったところ、1価ワクチンだけの接種者やワクチン未接種者と比べて、2価ワクチン接種者は感染に対する予防効果が高く、特に高齢者において、死亡に対する抑制効果がワクチン未接種者の10.3~23.7倍と有意に高い結果を得ましたので、これを報告した論文(文献1)を取り上げます。


文献1.
Johnson AG, et al., COVID-19 Incidence and Mortality Among Unvaccinated and Vaccinated Persons Aged ≥12 Years by Receipt of Bivalent Booster Doses and Time Since Vaccination — 24 U.S. Jurisdictions, October 3, 2021–December 24, 2022, MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2023;72:145-152.


【背景・目的】

以前にSARS-CoV-2のデルタ株に対する1価ワクチンのブースター接種には、コロナ関連死亡に対する抑制効果をもつことが示されたことから、同様に、コロナ関連死亡に対する2価ワクチンブースター接種の抑制効果が期待される。従って、これを本研究の目的とした。

【方法】

  • 本研究は、2021年10月3日~2022年12月24日の期間(このうち2022年9月1日以降は2価ワクチンのブースター接種が推奨された)で、米国の24地域におけるCOVID-19罹患2,129万6,326例、及びCOVID-19関連死11万5,078例のデータを基に、1価及び2価のコロナワクチンの効果を評価した後向きコホート研究である。
  • 調査期間を、デルタ期(2021年10月3日~12月18日)、オミクロンBA.1期(2021年12月19日~2022年3月19日)、BA.2期(3月20日~6月25日)、BA.4/BA.5前期(6月26日~9月17日)、BA.4/BA.5後期(9月18日~12月24日)に分け、年齢層別(12~17歳、18~49歳、50~64歳、65~79歳、80歳~)、及び最後にブースター接種を受けてからの期間別に、人口10万人当たりの週平均の感染率と死亡率を、ワクチン未接種者と1価又は2価ブースターワクチン接種者で比較し、感染率比と死亡率比(rate ratio:RR)*3 を算出した。

【結果】

  • すべての期間において、10万人当たりの週平均の感染数と死亡数は、ワクチン未接種者(範囲:感染216.1~1,256.0、死亡1.6~15.8)の方が1価ワクチン接種者(範囲:感染86.4~487.7、死亡:0.3~1.4)より高かった。
  • BA.4/BA.5後期では、ワクチン未接種者のコロナ関連死亡率は、1価ワクチンブースター接種者と比較して5.4倍、2.5倍高く、2価ワクチンブースター接種者と比較して14.1倍、感染率は2.8倍高かった。
  • BA.4/BA.5後期では、特に高齢者において、ワクチン未接種者と接種者のコロナ関連死亡率の差が大きかった。ワクチン未接種者の死亡率は、1価ブースター接種者と比較して、65~79歳で8.3倍、80歳以上で4.2倍高く、2価ブースター接種者と比較して、65~79歳で23.7倍、80歳以上で10.3倍高かった。
  • BA.4/BA.5前期では、1価ブースター接種後6~8ヵ月(RR:4.6)、9〜11ヵ月(RR:4.5)、12ヵ月以上(RR:2.5)で死亡抑制効果の低下が認められた。一方、BA.4/BA.5後期では、2週間~2カ月以内に2価ブースター接種を受けた人のほうが、死亡抑制効果が高かった(RR:15.2)。

【結論】

いずれの解析でも、ワクチン未接種者と比較すると、2価ブースター接種者は、1価ブースター接種者よりも死亡に対する抑制効果が強化されていた。特に、高齢者で最も高かった。以上のように、ウイルスの新たな変異に対しても、ワクチンの死亡に対する抑制効果を継続的に観察する必要がある。

用語の解説

*1. コロナ慣れ
感染者数の規模は拡大しているにも関わらず、感染不安はやや弱まっている。その要因として、ポジティブな面では感染防止対策の習慣化や検査体制の充実、治療のノウハウの確立があげられる。一方で医療体制がひっ迫しているにも関わらず、感染しても適切な治療が受けられない不安まで弱まっている状況を見ると、危機意識の低下による「コロナ慣れ」というネガティブな面も指摘できる。
*2. オミクロン株BA.4/BA.5
BA.1、BA.4-5は、いずれもオミクロン株の種類(亜系統)である。抗原性(免疫反応を引き起こす性質)について、オミクロン株と従来株との間の差に比べ、BA.1とBA.4-5との間の差は大きくないことが示唆されています。オミクロン株対応2価ワクチンは、BA.1対応型であっても、BA.4-5対応型であっても、オミクロン株の成分を含んでいるため、現在流行の中心であるオミクロン株に対し、従来の1価ワクチンを上回る効果が期待されています。オミクロン株の亜種については、2022/12/13;「高齢化社会日本におけるコロナ禍超過死亡率」を参照して下さい。
*3. 率比(rate ratio:RR)
比 ratioはある数を別の数で割ったa/bという分数の形で表される、性質の異なる2つの事象や発生の対比による頻度である。率rateはある時期におけるある事象の頻度をその期間にその事象をとりうる可能性のある数で割った比である。

今回の論文のポイント

  • 2価ブースター接種者は、1価ブースター接種者よりもワクチン未接種者と比較すると、死亡に対する予防効果が(特に高齢者で)強化されていました。
  • 本論文の結果より、現状における2価ワクチン接種率の低下を改善することが必要と思われます。今後、第9波が来ないとも限らないので、高齢者や重症リスクが高い方は、早目に2価ワクチンのブースター接種を受けることが推奨されます。

文献1
Johnson AG, et al., COVID-19 Incidence and Mortality Among Unvaccinated and Vaccinated Persons Aged ≥12 Years by Receipt of Bivalent Booster Doses and Time Since Vaccination — 24 U.S. Jurisdictions, October 3, 2021–December 24, 2022, MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2023;72:145-152.