バリン、ロイシン、およびイソロイシンなどのBCAAは筋肉中に最も多く存在する必須アミノ酸です(筋肉中のタンパク質構成アミノ酸の35%はBCAAと言われています)。筋肉は、運動中に分解が高まりますが、BCAAを摂取すると、運動後の筋肉の分解が抑えられ筋肉のたんぱく質を作る量を増やす、すなわち、タンパク質同化作用が強くなります。したがって、サルコペニアに対する治療に用いられる可能性が考えられて来ました。また、BCAAは肝臓のエネルギー源になりやすいアミノ酸です。BCAAを多く摂取しアミノ酸バランスを整え、肝臓のエネルギー不足を補うと、肝臓でアルブミンが多く作られるようになって肝硬変の予後を改善することが知られています。サルコペニアは、高年齢、活動性の低下、低栄養から、疾病が関与する臓器不全によるものまで多くの要因で引き起こされますが(図1)、肝硬変には、高率にサルコペニアが伴うことが知られていますので、肝硬変に伴うサルコペニアに対して、BCAAに治療効果があるかどうかというのは興味深い問題です。このような状況で、米国・ベイラー医科大学のFouad Jaber博士らのグループは、肝硬変に伴うサルコペニアに対して、BCAAに治療効果があるかどうかを知るため、系統的(システマティック)レビュー・メタ解析を行ないました。その結果、BCAAは肝硬変を改善するものの、肝硬変に伴うサルコペニアに対しては有意な効果が認められませんでした。これらの結果は、残念ながらnegativeな結果ですが、今後の研究に役立つものと思われます。最近、Journal of Clinical and Experimental Hepatologyに掲載されましたので(文献1)、それを紹介いたします。
文献1.
Branched-Chain Amino Acid Supplements for Sarcopenia in Liver Cirrhosis: A Systematic Review and Meta-analysis, Mohamed Abuelazm et al, Journal of Clinical and Experimental Hepatology Volume 15, Issue 1, January–February 2025, 102417
肝硬変には、高率にサルコペニアが伴うことが知られており、治療法を確立することが必要である。BCAAは筋肉における蛋白質同化作用を持ち、また、肝硬変の改善効果があることが知られている。したがって、BCAAによる肝硬変に伴うサルコペニアの改善効果の有無を理解するのが本プロジェクトの目的である。
この目的のため、「肝硬変に伴うサルコペニアに対するBCAAの効果」に関するRCTについてPubMed, Embase, Cochrane, Scopus, Web of Science (〜2024年4月)を対象にした系統的レビュー・メタ解析を行った(PROSPERO ID: CRD42024542761として登録)
以上、BCAAは肝臓フレイル・インデックスを減少させ、BMI、QOLを増加させたことから、肝硬変を改善すると思われたが、握力、MELDスコア、骨格筋インデックス、歩行スピードの結果からサルコペニアに対する効果はないと判断された。しかしながら、それぞれのRCTの異質性を考慮すれば、更なる研究が必要である。