ハンチントン病や脊髄小脳失調症*1 の多くの神経変性疾患は、グルタミンをコードするCAG塩基配列の繰り返しが、それぞれの疾患の原因遺伝子で異常に伸長することにより、ポリグルタミンを含む原因遺伝子産物が不溶性の線維構造を形成し、これらの線維が神経細胞に蓄積し、神経毒性を持つことにより発症します。このように、アルツハイマー病やパーキンソン病など他の神経変性疾患のメカニズムと本質的に同様のメカニズムであり、ポリグルタミンタンパクの異常凝集、特にβシート構造変移を抑制することが治療に有効と考えられています。最近、新潟大学脳研の小野寺理博士や近畿大学の永井義隆博士らの研究グループは、アミノ酸の一種であるL-アルギニンが、分子シャペロン*3として機能し、ポリグルタミンの凝集を抑制することを見出し、さらに、ポリグルタミン病の動物モデルで治療効果があることを報告していました(Minakawa EN et al. Brain 2020)(図1)。L-アルギニンは、すでに、サプリメントとして使われており、過剰摂取しない限り、リスクは無いだろうと思われるため、第1相臨床試験*2を省略することができます。今回、同グループは、脊髄小脳失調症6型(SCA6)*1に対する安全性・有効性を検討しました(図1)。その結果、運動失調に対する弱い治療効果を認めましたが(有意差なし、p=0.0582)、今後、より大人数での第3相臨床試験が行われ、統計学的な治療効果が証明されることが期待されます。これらの結果は、最近のeClinicalMedicine (Lancet)誌に発表されましたのでこの論文(文献1)を紹介いたします。
文献1.
L-arginine in patients with spinocerebellar ataxia type 6: a multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 2 trial., Tomohiko Ishihara et al, eClinicalMedicine Volume 78, December 2024, 102952
最近、我々は、L-アルギニンが、分子シャペロン効果を持ち、ポリグルタミンの凝集を抑制することを見出し、これに関連して、L-アルギニンが、ポリグルタミン病の動物モデルにおいて治療効果があることを報告した(Minakawa EN et al. Brain 2020)。したがって、これらの知見が、ヒトポリグルタミン病の治療に適用できるかどうか検討するのが本プロジェクトの目的である。
我々の研究は、SCA6の患者さんにおいて、L-arginineはSARAスコアを改善させる傾向を示した。SCA6の患者さんに対する第3相臨床試験において、L-arginineの48週の治療効果を解析することが可能であると思われるが、統計的検出力とサンプル数を注意深く考慮することが必要である。