
我が国は、超高齢化社会*3を迎え、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、パーキンソン病を含む認知症の患者さん数は、増加の一途を辿り、大きな社会問題になっています。したがって、これらの疾患の治療法の確立は急務です。近年、認知症の大部分を占めるアルツハイマー病に関しては、抗アミロイドbモノクローナル抗体による免疫療法の研究が精力的に行われた結果、最終的に臨床治験に成功しましたが、解決すべき問題点*4が多く、それらを克服して、疾患修飾療法*5として確立するには、さらに時間がかかりそうです。他方で、最近、注目されているのが、VZVワクチンです。昨年、米国スタンフォード大学医学部の研究グループにより、ウェールズにおけるVZVワクチン接種プログラムを活用した、所謂、自然実験において、VZVワクチンの接種により帯状疱疹が予防されるだけでなく、認知症を予防するオフターゲット効果*6があることが示され(図1)、Nature(Article)誌に掲載されました(Eyting, M, Nature2025)(帯状疱疹のワクチン接種は認知症リスクの低減に有効!?〈2025/11/20掲載〉)。しかしながら、すでに進行した認知症に対する効果は不明でした。このような状況で、スタンフォード大学の同じ研究グループは、ウェールズの自然実験を引き続いて解析し、VZVワクチンの接種は認知症になる以前の予防効果だけでなく、進行した認知症に対する治療効果があることを見出しました。すなわち、VZVワクチン接種はMCIの診断を低下させ、認知症の患者さんでは認知症による死亡も減少させることがわかりました。これらの結果は、認知症全般の治療に対するVZVワクチンの有効性を示唆するものであり、昨年末のビッグニュースになりました。今回は、Cell誌に掲載された論文(文献1)を報告いたします。
文献1.
Min Xie et al., The effect of shingles vaccination at different stages of the dementia disease course. Cell ;188, 7049-7064.e20 (2025).
我々は、以前に、ウェールズにおけるVZVワクチン接種プログラムを活用した自然実験において、VZVワクチンの接種により認知症が予防されることを見出していた(Eyting, M, Nature2025)。本論文の研究目的は、すでに進行した認知症に対するVZVワクチンの効果を検討することである。
引き続き、ウェールズにおけるVZVワクチンの接種に注目した(n=304,940)。すなわち、個人の正確な生年月日に基づいてワクチンの接種資格が決定されたこのプログラムでは、「1933年9月2日」以降「1934年9月1日」までに生まれた人々(80歳未満)は公費接種の対象となった一方で、「1933年9月1日」以前に生まれた人々(80歳以上)は対象外とされた。したがって、この誕生日という偶然の区切りを利用することで、ワクチン接種の有無という条件だけが異なる比較グループが出来上がった自然実験である。