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20202625/1/6

帯状疱疹ワクチンは進行した認知症の治療にも有効か!?

文責:橋本 款

今回の論文のポイント

  • 著者らは、ウェールズにおける帯状疱疹(VZV)ワクチン*1接種プログラムを活用した自然実験*2において、VZVワクチンの接種が認知症の予防効果をもつことを見出していたが、すでに進行した認知症に対するVZVワクチンの効果は不明であった。
  • 引き続き、ウェールズにおけるVZVワクチン接種プログラムを解析した結果(n=304,940)、ワクチン接種時に認知機能が正常であった場合(n=282,557)、接種した人は、接種しなかった人に較べて軽度認知障害(MCI)になるリスクが1.5ポイント低いことがわかった。
  • ワクチン接種時にすでに認知症であった場合(n=14,350)、ワクチンを受けた人は、受けなかった人に較べて認知症で亡くなるリスクが29.5ポイントも低かった。
  • これらのことから、VZVワクチンが、認知症の予防治療に役立つ可能性があると思われた。
図1.

我が国は、超高齢化社会*3を迎え、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、パーキンソン病を含む認知症の患者さん数は、増加の一途を辿り、大きな社会問題になっています。したがって、これらの疾患の治療法の確立は急務です。近年、認知症の大部分を占めるアルツハイマー病に関しては、抗アミロイドbモノクローナル抗体による免疫療法の研究が精力的に行われた結果、最終的に臨床治験に成功しましたが、解決すべき問題点*4が多く、それらを克服して、疾患修飾療法*5として確立するには、さらに時間がかかりそうです。他方で、最近、注目されているのが、VZVワクチンです。昨年、米国スタンフォード大学医学部の研究グループにより、ウェールズにおけるVZVワクチン接種プログラムを活用した、所謂、自然実験において、VZVワクチンの接種により帯状疱疹が予防されるだけでなく、認知症を予防するオフターゲット効果*6があることが示され(図1)、Nature(Article)誌に掲載されました(Eyting, M, Nature2025)(帯状疱疹のワクチン接種は認知症リスクの低減に有効!?〈2025/11/20掲載〉)。しかしながら、すでに進行した認知症に対する効果は不明でした。このような状況で、スタンフォード大学の同じ研究グループは、ウェールズの自然実験を引き続いて解析し、VZVワクチンの接種は認知症になる以前の予防効果だけでなく、進行した認知症に対する治療効果があることを見出しました。すなわち、VZVワクチン接種はMCIの診断を低下させ、認知症の患者さんでは認知症による死亡も減少させることがわかりました。これらの結果は、認知症全般の治療に対するVZVワクチンの有効性を示唆するものであり、昨年末のビッグニュースになりました。今回は、Cell誌に掲載された論文(文献1)を報告いたします。


文献1.
Min Xie et al., The effect of shingles vaccination at different stages of the dementia disease course. Cell ;188, 7049-7064.e20 (2025).


【背景・目的】

我々は、以前に、ウェールズにおけるVZVワクチン接種プログラムを活用した自然実験において、VZVワクチンの接種により認知症が予防されることを見出していた(Eyting, M, Nature2025)。本論文の研究目的は、すでに進行した認知症に対するVZVワクチンの効果を検討することである。

【方法】

引き続き、ウェールズにおけるVZVワクチンの接種に注目した(n=304,940)。すなわち、個人の正確な生年月日に基づいてワクチンの接種資格が決定されたこのプログラムでは、「1933年9月2日」以降「1934年9月1日」までに生まれた人々(80歳未満)は公費接種の対象となった一方で、「1933年9月1日」以前に生まれた人々(80歳以上)は対象外とされた。したがって、この誕生日という偶然の区切りを利用することで、ワクチン接種の有無という条件だけが異なる比較グループが出来上がった自然実験である。

【結果】

  • 最初は認知機能が正常だった約28万人(n=282,557)を9年間追跡した結果、ワクチン接種を受けた人は、接種しなかった人に較べてMCIになるリスクが1.5ポイント低いことがわかった。
  • プログラム開始時にすでに認知症だった約14,350人も追跡した結果、9年間で約半分の人が認知症が原因で亡くなった。これに対して、ワクチンを受けた人は、受けなかった人に較べて認知症で亡くなるリスクが29.5ポイントも低かった。
  • 異なる集団(イングランドおよびウェールズの複合人口)においても、同様の結果を確認した。

【結論】

  • 我々の知見は、再生後発性VZVワクチン接種が軽度の認知障害や認知症を予防または遅らせるだけでなく、すでに認知症を患っている人々の疾患経過を遅らせる可能性があることを示唆している。
  • 本研究は、弱毒化生ワクチンを用いた結果であるが、現在、主流である組換えワクチン(シングリックス)に関しても確認するのが望ましい。

用語の解説

*1.帯状疱疹(VZV)ワクチン
帯状疱疹ワクチンには、シングリックスとゾスタバックスの二種類があり、それぞれ、組換えワクチン、弱毒化生ワクチンである。詳細は、(帯状疱疹のワクチン接種は認知症リスクの低減に有効!?〈2025/11/20掲載〉)を参照。
*2.自然実験
自然実験とは、研究者が意図的に条件を操作するのではなく、実社会で自然に発生した状況変化を利用して、原因と結果の関係や特定の要因の影響を分析する研究手法である。詳細は、(帯状疱疹のワクチン接種は認知症リスクの低減に有効!?〈2025/11/20掲載〉)を参照。
*3.超高齢化社会
『高齢社会』とは65歳以上の高齢者の割合が人口の14%を超えた社会を、さらに、『超高齢社会』とは65歳以上の高齢者の割合が人口の21%を超えた社会を指す。日本は1994年の時点で高齢社会に突入し、2007年で超高齢社会を迎えた。
*4.アルツハイマー型認知症に対する免疫療法の問題点
現在の抗アミロイド蛋白モノクローナル抗体による免疫療法には、i) 病初期にのみ効果が見られるなど治療効率が高くないこと、ii) 脳血管障害による脳浮腫の副作用があること、iii) 定期的な治療が必要であり、医療費が高額になることなど、いくつかのデメリットがある。
*5.疾患修飾療法(Disease modifying therapy;DMT)
DMTとは、疾患の原因となっている物質を標的として作用し、疾患の発症や進行を抑制する薬剤を用いた治療のことをいう。疾患修飾薬は、しばしば、症状改善薬と対比的に用いられる。
*6.オフターゲット効果
オフターゲット効果とは、薬やゲノム編集ツールが、意図した標的以外の分子やDNA領域にも作用してしまう現象を指す。これは副作用の原因となることが多いが、新たな薬理作用の発見につながる可能性もある。

文献1
Min Xie et al., The effect of shingles vaccination at different stages of the dementia disease course. Cell ;188, 7049-7064.e20 (2025).