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2026/1/15

認知症リスクとワクチン接種の関連性;システマティックレビュー・メタ解析

文責:橋本 款

今回の論文のポイント

  • 最近、高齢者に対する帯状疱疹ワクチン(Herpes zoster vaccine:HZV)接種は、アルツハイマー病(AD)やその他の認知症全般に対する予防治療、及び、すでに認知症状のある患者さんの根治治療にも有効である可能性があると報告された。
  • しかしながら、HZVの特異性に関しては不明であり、これを明らかにするためにシステマティックレビュー(系統的レビュー)・メタ解析を行った。
  • その結果、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチン、及び、破傷風、ジフテリア、百日咳3種混合ワクチン*1にもADや認知症のリスクを予防効果があった。
  • これらのことより、高齢者に対するワクチン接種は、ウイルスの種類に関わらず、認知症の予防に効果的であると推定される。
図1.

最近、神経変性疾患の治療研究の領域において、高齢者のワクチン接種により、認知症のリスクが低減する可能性が注目されています。前回までに、HZVの接種に認知症を予防し、引き続き、すでに進行した認知症に対する治療効果があることを報告した論文を紹介いたしました。(帯状疱疹のワクチン接種は認知症リスクの低減に有効!?〈2025/11/20掲載〉)、(帯状疱疹ワクチンは進行した認知症の治療にも有効か!?〈2026/1/6掲載〉)。しかしながら、HZV特異性に関しては不明であり、実際、インフルエンザワクチンなど、他のワクチンによる認知症予防効果に関する報告もありました。このような状況で、イタリア・国立研究評議会神経科学研究所*2のStefania Maggi博士、及び、共同研究者は、高齢者における認知症のリスクとワクチン接種による予防効果に関するシステマティックレビューとメタアナリシスを行いました。その結果、HZVだけでなく、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンにおいてもADや認知症リスクの低減に繋がることが示されました(図1)。メカニズムに関しては、おそらく、ワクチン接種により、免疫系が賦活され、炎症が抑制される可能性などが考えられますが(図1)、アジュバントなどワクチンの解析において、抗ウイルス作用以外の効果が寄与し得る可能性を考慮すれば、今後の研究が必要であると思われます。これらの結果は、最近のAge and Ageing誌に掲載されましたので、今回は、この論文(文献1)を報告いたします。


文献1.
Stefania Maggi et al., Association between vaccinations and risk of dementia: a systematic review and meta-analysis Age and Ageing, Volume 54, Issue 11, November 2025, afaf331


【背景】

現代の高齢化社会において、認知症の予防は公衆衛生上の最優先事項の一つであるが、ウイルス感染に対するワクチン接種の役割については解明されていない。

【目的】

本プロジェクトは、一般的な成人ワクチン接種が認知症のリスク低下と関連しているかどうかを評価するために、システマティックレビュー・メタアナリシスを通して、この問題にアプローチすることを研究目的とする。

【方法】

  • 50歳以上のワクチン接種済み成人と未接種の成人における認知症と軽度認知障害の発生率を比較した観察研究*3をPubMed、Embase、Web of Scienceをデータソースとして、それぞれ、開始から2025年1月1日まで検索した。
  • 4人のレビュアーが独自にデータを抽出し、ニューカッスル・オタワ・スケール*4を用いて研究の質を評価した。リスク比(RR)と95%信頼区間(CI)は、ランダム効果モデル*5を用いて調整された。
  • AD、および、その他の認知症を含む発生率について解析した。

【結果】

  • 全部で、21件の研究(n=104 031 186人の参加者)が含まれた。
  • HZV接種は、接種しなかった人に比べて、あらゆる認知症のリスク低下(RR 0.76、95% CI 0.69-0.83)、および、ADのリスク低下(RR 0.53、95% CI 0.44-0.64)と関連していた。
  • インフルエンザワクチン接種は、接種しなかった人に比べて、あらゆる認知症リスクの低下(RR 0.87、95%CI 0.77-0.99)と関連していた。
  • ADの肺炎球菌ワクチン接種は、接種しなかった人に比べて、ADのリスク低下(RR 0.64、95%CI 0.47-0.87)と関連していた。
  • 破傷風、ジフテリア、百日咳(Tdap)3種混合ワクチン接種も、接種しなかった人に比べて、あらゆる認知症リスクの低下(RR 0.67、95% CI 0.54-0.83)に関連していた。

【結論】

帯状疱疹ウイルス、インフルエンザ、肺炎球菌、Tdapに対する成人の予防接種は、ADやその他の認知症のリスクが低いことと関連していた。したがって、高齢者における認知症予防のために、ワクチン接種戦略を組み込むことが考えられる。

用語の解説

*1.破傷風、ジフテリア、百日咳ワクチン接種(Tdapワクチン、3種混合ワクチン)
Tdapワクチンは、破傷風(Tetanus)、ジフテリア(diphtheria)、百日咳(acellular pertussis)の3つの病気を予防する3種混合ワクチンである。特に、乳児期にワクチンを接種した人が、10代以降に免疫を強化するために接種することが推奨されている。日本ではTdapワクチンは輸入ワクチンとして提供されており、国内では製造されていない。
*2.国立研究評議会神経科学研究所(Institute of Neuroscience, National Research Council)
この機関はイタリアの国立研究評議会(CNR)の一部で、パドヴァにも支部がある。脳の組織的・機能的な側面を調査し、神経疾患に対する治療法の開発に貢献することをミッションとしている。
*3.観察研究
観察研究とは、研究者が対象に介入せず、行動や事象を注意深く観察し、データを収集・分析することで新しい知見を得る研究方法である。この研究は、特定の個人や集団の特性を把握することを目的としている。
*4.ニューカッスル・オタワ・スケール(Newcastle Ottawa Scale;NOS)
NOSは、非ランダム化研究の質を評価するためのツールである。オーストラリアのニューカッスル大学とカナダのオタワ大学が共同で開発した。主にシステマティックレビューやメタアナリシスに組み込まれる研究の質を評価する際に使用される。
*5.ランダム効果モデル
ランダム効果モデルは、統計学において、母集団からランダムに抽出されたグループや個体に関連する効果を考慮するモデルである。このモデルでは、グループ間のばらつきを説明するために、固定効果とランダム効果の両方を組み込むことができる。詳細は専門書をご覧ください。

文献1
Stefania Maggi et al., Association between vaccinations and risk of dementia: a systematic review and meta-analysis Age and Ageing, Volume 54, Issue 11, November 2025, afaf331