
前回まで、神経変性疾患の治療研究の領域において、認知症のリスクが低減する可能性があることをお伝えしましたが(認知症リスクとワクチン接種の関連性;システマティックレビュー・メタ解析〈2026/1/15掲載〉)、がんの治療研究においても高齢者のワクチン接種の重要性が注目されています。最近、ICIによるがん治療が行われていますが、これは、がんが “免疫のブレーキ” をかけて増殖している状態を解除し、免疫細胞ががんを攻撃できるようにする治療です。ICIは、多くのがん患者さんで生存期間を延長しますが、がんワクチンとの併用により、より効果が出る場合が多いことが知られています。しかしながら、個別化がんネオアンチゲンワクチン*3を使った治療(がん免疫療法のパーソナル医療:個別化ネオアンチゲンワクチン〈2025/5/27掲載〉)は、それ自体、複雑で時間のかかる製造プロセスであることから、ICIを使ったがんの免疫療法における大きな課題の一つでした。このような状況で、米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンター*4のAdam. J. Grippin博士らは、コロナウイルス感染症の治療に使われるSARS-CoV-2mRNAワクチンが腫瘍のICIに対する感受性を増加させ(図1)、ICI開始後100日以内にSARS-CoV-2 mRNAワクチンを接種することにより、3年生存率は著しく改善することを見出しました。これらの結果は、SARS-CoV-2 mRNAワクチンが、腫瘍をICIに感作できる強力な免疫調節因子であることを示す非常に意義深いものであり、最近のNature誌に掲載されましたので、今回は、この論文(文献1)を報告いたします。
文献1.
Grippin, A.J., Marconi, C., Copling, S. et al., SARS-CoV-2 mRNA vaccines sensitize tumors to immune checkpoint blockade. Nature, 647, 488–497 (2025).
がん治療におけるICIは、単独では、治療効果が小さいが、がんワクチンとの併用により、効果が出る場合が多い。しかしながら、個別化がんネオアンチゲンワクチンを使った治療は、それ自体、複雑で時間のかかる製造プロセスによって制限され、実用的ではない。
本プロジェクトの研究目的は、SARS-CoV-2 mRNAワクチンがICIに対する腫瘍の感受性を高めるかどうかを評価することである。この目的のため、mRNAワクチン接種を受けたがん患者さんのアウトカム比較、マウスモデルでの解析を通して、この問題にアプローチした。
以上の結果は、臨床的に利用可能なSARS-CoV-2 mRNAワクチンが、腫瘍のICIに対する感受性を増す免疫調節因子となり得ることを示唆している。