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2026/4/7

線維芽細胞成長因子誘導性14による線維芽細胞の老化・肺線維症の促進

文責:橋本 款

今回の論文のポイント

  • 線維芽細胞の老化が肺線維症(PF)*1の病態において重要な役割を果たすことが知られているが、老化線維芽細胞を標的とするセノリスティック*2療法が、PFの改善において有効であるのは興味深い。
  • 本プロジェクトでは、線維芽細胞老化のメカニズムを解明するためにPF患者さん、及び、bleomycin(BLM)を処理*1したマウス由来の肺上皮の線維芽細胞を線維芽細胞の老化におけるメディエーターとしての線維芽細胞成長因子誘導性14 (Fn14) *3に焦点を当てて解析した。
  • その結果より、Fn14の持つ線維化作用が線維芽細胞の老化を促進して、PFの病態を進行させることを示唆しており、PFの治療におけるFn14標的療法を支持するものである。
図1.

近年の高齢社会化の到来により、高齢で疾患を持つ患者数の増加・医療費や介護の負担は大きな社会問題になっています。それに応じて、老年医学の領域では、基礎的・臨床的研究が精力的に行われていますが、最近、お伝えしていますように、セノリティクスと呼ばれる新しい治療研究が大きく注目されています(老化除去薬併用(ダサチニブ+ケルセチン)によるマウス糖尿病性腎症の治療〈2026/3/24掲載〉)。セノリティクスは、老化細胞除去薬により、老化細胞を標的とし、老化細胞を破壊・除去するアプローチですが、その作用メカニズムをよりよく理解することは、薬剤開発を効率的に遂行するだけでなく、老化の基礎的なメカニズムの解明に繋がる可能性があり、非常に重要です。以前より、老化した線維芽細胞がセノリティクス薬の標的になることからも、線維芽細胞の老化における役割が推定されていました。今回、中国・湖南省にある中南大学のXin-Xin Guan博士らは、ヒトPF及び マウスPFモデルのいずれの系においても肺線維芽細胞において、Fn14が高発現しており、Fn14のノックダウンにより、肺構造の乱れが軽減され、マウスPFモデルの肺における線維芽細胞の老化が軽減されることを見出しました(図1)。これは、セノリスティック療法によりFn14を標的にすることが、治療に結びつくことを示唆するものであり、非常に意義深いと考えられます。これらの結果は、最近のCell. Mol. Life Sci.誌に掲載されましたので、今回は、この論文(文献1)を報告いたします。このような老化線維芽細胞に発現するFn14を標的にしたセノリスティック療法が、多くの高齢疾患の治療に共通したアプローチになるかどうか興味深いと思われます。


文献1.
Fibroblast growth factor-inducible 14 accelerates pulmonary fibrosis by inducing fibroblast senescence in mice
Guan, XX. et al. Cell. Mol. Life Sci. 83, 165 (2026).


【背景・目的】

最近の研究は、線維芽細胞老化がPFの病態において重要な役割を果たすことを示している。注目すべきは、老化線維芽細胞を標的とするセノリスティック療法が、PFの改善において顕著な有効性を示していることである。したがって、線維芽細胞老化のメカニズムを解明することは、PFを予防するための有望なアプローチであり、これを本研究の目的とした。

【方法】

この目的のため、PF患者さん、及び、bleomycin (BLM)を処理したマウス由来の肺上皮の線維芽細胞を解析した。具体的には、線維芽細胞の老化におけるメディエーターとして、線維芽細胞成長因子14(Fn14)を同定した。

【結果】

  • Fn14は、PF患者さんとBLM処理したマウスの両方から生じる肺線維芽細胞において、高度に発現していた。
  • Fn14のノックダウンにより、肺構造の乱れが軽減され、BLM治療を受けたマウスの肺における線維芽細胞の老化が軽減された。
  • インビトロでは、Fn14の活性化が肺線維芽細胞における細胞老化を促進した。
  • 一つのメカニズムとして、Fn14誘発性ミトファジー障害によりミトコンドリアDNAの漏洩が生じた結果、cGAS-STING*4シグナル伝達が活性化し、炎症が促進したことが考えられた。
  • さらに、Fn14の活性化によって誘導された線維芽細胞老化は、Fn14のノックダウン、または、cGASの阻害(阻害剤RU521.)、により抑制された。

【結論】

以上の結果は、Fn14の持つ線維化作用が線維芽細胞の老化を促進し、PFの病態を進行させることを示唆しており、PFの治療におけるFn14標的療法を支持するものである。

用語の解説

*1.肺線維症(Pulmonary fibrosis: PF)
間質性肺炎は肺の間質組織の線維化が起こる疾患の総称である。進行して炎症組織が線維化したものは肺線維症と呼ばれる。間質性肺炎は様々な原因で起こりうるが、特定の原因が断定できないものを特発性間質性肺炎と呼ぶ。特発性間質性肺炎は日本の特定疾患で、その予後は臨床診断によって様々である。例えば特発性器質化肺炎 (Cryptogenic organizing pneumonia: COP) は一般に予後良好であるが、特発性肺線維症 (idiopathic pulmonary fibrosis: IPF) 及び急性間質性肺炎 (acute interstitial pneumonia: AIP) については難治性である。
BLM肺線維症モデルにおいて、BLMによって産生される活性酸素が肺胞上皮に傷害を与え、それに引き続き炎症細胞浸潤や組織学的に肺水腫を生じ、遷延化することで肺の繊維化を引き起こす。
*2.セノリティクス(Senolytics)
老化細胞除去による認知・運動機能の改善に関するパイロット研究〈2025/4/10掲載〉)を参照。
*3.線維芽細胞成長因子誘導性14 (Fn14)
Fn14は腫瘍壊死因子(TNF)受容体スーパーファミリー(TNFRSF)のメンバーであり、そのリガンドTNF様弱誘導因子(TWEAK)により活性化される。後者は可溶性で膜結合型のホモ三量体分子として起こる。可溶性TWEAK(sTWEAK)は、弱い炎症性代替NF-κB経路を活性化し、TNF誘導細胞死に対し感作するが、膜TWEAK(memTWEAK)は、古典的NF-κB経路及び各種のMAPキナーゼカスケードの付加的に頑健な活性化を誘導する。Fn14発現は成体生物において制限されるが、種々の成長因子、サイトカイン及び物理的ストレッサー(例えば低酸素,照射)により非造血細胞において強く誘導される。
*4.cGAS-STING経路
環状GMP-AMPシンターゼ(cyclic GMP-AMP synthase:cGAS)は、細胞質内のDNAセンサーとして外来微生物由来の異種DNAや自己の変性DNAなどを認識し、cGAMP(cyclic GMP-AMP)とよばれる環状ジヌクレオチドの合成を触媒する。合成されたcGAMPはSTING(Stimulator of interferon genes)を活性化し、セリン/スレオニンキナーゼTBK1(TANK-binding kinase 1)及び転写因子IRF3(Interferon regulatory factor 3)を介してⅠ型インターフェロンの産生を促進する。

文献1
Fibroblast growth factor-inducible 14 accelerates pulmonary fibrosis by inducing fibroblast senescence in mice
Guan, XX. et al. Cell. Mol. Life Sci. 83, 165 (2026).