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妊娠中の方や、妊娠を希望している方で新型コロナウイルスのワクチンの安全性に不安を感じている方は多いと思います。以前、東京都医学総合研究所のHPにおいて、新型コロナウイルスのmRNAワクチンの妊婦への安全性に関するアメリカの疾病対策センター（CDC）より発表された論文（新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンの妊婦への安全性）を紹介しました。この論文では、ワクチン接種が開始されたばかりであったことから、妊娠初期や妊娠中期におけるワクチン接種の影響については、評価されていませんでした。今回、CDCから、妊娠20週までにmRNAワクチンを接種した妊婦に関する評価結果（引用文献1）が公開されましたので、紹介します。
CDCではスマートフォンを使って、新型コロナウイルスのワクチン接種後の健康状態や有害事象を調査しています。その調査システムはv-safeと呼ばれ、妊娠に関する調査項目も含まれています。今回の研究では、妊娠20週前にmRNAワクチンを少なくとも1回接種した妊婦2,456名を対象としました。この2,456名の妊婦には、妊娠前に接種した人も含まれています。妊娠前の接種と言っても、妊娠の何か月も前に接種した人を含めているわけではありません。妊娠前の最後の生理の4週間前から生理終了2週間後までの間にmRNAワクチンを接種した人と定義して、研究に参加してもらっています。
ワクチンの接種状況については、90％の妊婦は2回接種を完了し、半数がモデルナ製のワクチン、残りの半数がファイザー・ビオンテック製のワクチンを接種していました。
結果ですが、安全性の評価項目として2,456名における自然流産の発生件数を調べたところ、妊娠20週前の自然流産の割合（リスク）は14.1%でした。一般に妊娠年齢が高くなると自然流産の割合が高くなることが知られています。今回対象とした妊婦では、一般集団より年齢が多少高かったことから、その年齢差を調整した自然流産の割合を再解析したところ、最終的に自然流産の割合は12.8%であることがわかりました。先進国における妊娠20週前の自然流産の割合は11%から16%であると報告されています。このことから、CDCはmRNAワクチンを接種した妊婦で妊娠20週前の自然流産のリスクが高まらなかったとの結論を出しました。そして、CDCは妊婦へのmRNAワクチンの接種を推奨（recommendation）すると発表しました。
しかし、この自然流産に関する研究結果には制約（limitation）もあります。このレポートでは、過去の研究において得られた自然流産の割合と、mRNAワクチンを接種した妊婦の自然流産の割合を比較しています。もし可能であれば、同じ研究の中でワクチンを接種していないグループとワクチンを接種グループで比較すれば、より正確な結果が得られると考えられます。ただワクチン接種を推奨している状況では、ワクチンを接種していないグループの確保が難しくなるとも考えられます。また、65名の妊婦とは連絡が取れなくなったことも言及しております。極端にはなりますが、これら65名の妊婦は全員自然流産となってしまった可能性もあります（この極端なケースを想定した解析もCDCの筆者らは行っていました）。他には、対象となった2,456名の妊婦は、ヨーロッパ系の人が78%であり、職業も医療従事者が89%と、アメリカ社会における集団構成や職業構成とは異なるものでした。これらのことは、研究結果に影響を与える可能性があります。しかし、このレポートのCDCの筆者らは、limitationを統計学的に調整した解析も実施し、最終的に妊婦へのmRNAワクチンの接種を推奨すると結論づけました。
妊娠20週前にワクチン接種を受けた妊婦の安全性に関しては、この後もフォローアップが行われます。妊娠中期、妊娠後期、出産、新生児においてワクチン接種が影響を与えているか、自然流産以外の項目も含めて、評価されていくことになると思います。これにより新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンの妊婦への安全性に関するデータが蓄積し、科学的根拠に基づいた接種指針が決定されていくことが期待されます。