最近、お伝えしましたように(パーキンソン病の治療研究;G2019S LRRK2キナーゼ阻害剤によるミトコンドリアDNA損傷の回復〈2024/9/5掲載〉)、家族性パーキンソン病(PD)のうち最も高頻度に認められるLRRK2遺伝子変異を有するPD患者さん(PARK8)の脳においては、LRRK2のリン酸化による活性化が亢進しており、孤発性PD患者さんと臨床症状が類似しています。しかしながら、必ずしも、PARK8の病態が均一というわけではありません。実際、黒質におけるαSの凝集は、PARK8タイプの患者さんの約3分の2しか認められず、残りの3分の1の症例においては、Tauの凝集が観察されたという結果が報告されています(図1)。この様な病態の差がどのように臨床症状に反映されるのかは明らかになっていません。米国・アイオワ大学のLana M Chahine博士らは、PARK8の患者さんの間で、αSの凝集の有無で臨床症状がどのようが異なるのか理解するために、PPMIから得たサンプル・データを解析しました。その結果、αSの凝集の有る症例では、静止時振戦、筋強剛(筋固縮)、運動緩慢・無動などの運動障害(パーキンソニズム)が主な症状でしたが、αSの凝集が認められない場合は、運動障害は軽度であることが観察されました(文献1)。これらの結果は、LRRK2パーキンソニズムにおける運動障害とαSの凝集を説明し、PDのサブタイプ応じた治療に結びつく可能性を示唆すると思われます。現在、レビュー中の論文が bioRxiv. Preprint.に掲載されていますので(文献1)、今回はそれを紹介いたします。
文献1.
LRRK2-Associated Parkinsonism With and Without In Vivo Evidence of Alpha-Synuclein Aggregates, Lana M Chahine et al., medRxiv Posted July 22, 2024
LRRK2関連のパーキンソニズムの患者さんの多くは、中脳黒質におけるαS凝集の証拠を示していますが、約3分の1の症例においてはそうではない。そのような個人における臨床表現型とメカニズムを理解することは、治療法の開発に重要である。本プロジェクトは、αS凝集体の有無の異なるPARK8の患者さんの間で、4年間のフォローアップにわたる臨床的およびバイオマーカーの特徴と進行率を比較することを目的とした。
多施設の前向きコホート研究であるPPMIからデータ・サンプルを手に入れた。サンプルには、LRRK2の病原性変異体を持つPD (PARK8)と診断された症例が含まれていた。αS凝集体の存在は、CSFのαS種子増幅アッセイ*2で評価された。臨床医と患者さんの結果報告を評価した。バイオマーカーには、ドーパミン輸送体スペクトルスキャン*3、CSFアミロイドβ1-42、タウ、リン酸化タウ、尿ビスリン酸レベル、および血清ニューロフィラメント軽鎖が含まれた。線形混合効果モデル*4は、CSFαS凝集体の陰性グループと陽性グループの軌跡の違いを調べた。
本研究により、αS凝集体の増加したLRRK2パーキンソニズムの症例 (PARK8)は、より重度の運動症状を示した。αS凝集体の減少は認知機能障害を持つ可能性があるのではないかと推定されるが、さらなる研究が必要である。