最近、お伝えしていますように、PDの臨床治験においては、抗a-シヌクレインモノクローナル抗体やエキセナチドがことごとく失敗に終わりました(モノクローナル抗体Prasinezumabを用いたパーキンソン病の免疫療法〈2024/8/20掲載〉)(エキセナチドのパーキンソン病治療効果は確認されず;第3相臨床試験〈2025/3/4掲載〉)。このように厳しい状況にありますが、新たな研究の芽はすでに出始めています。現在、最も注目されているのが腸内環境とPDの関連性です。すなわち、PDの患者さんにおいては健常者に比べて、特定の細菌が増減することが明らかにされており、腸内環境を是正することが治療に重要かも知れないという考え方です。他方で、最近、サソリ毒由来の耐熱性ペプチドSVHRSPの神経保護作用が注目されていますが、PDの領域においては、これまで、ロテノン誘発性PDモデルにおいて、SVHRSPが黒質領域において酸化ストレスや炎症を抑制することによりドーパミン作動性神経変性を減弱することが示されて来ました。今回、中国・大連医科大学(Dalian Medical University)のMengdi Chen博士らは、ロテノン誘発性PDマウスにおいて、SVHRSPペプチドのドーパミン神経保護作用における腸内環境の重要性を支持する所見を得ました(図1)。この結果は、最近のnpj Parkinson’s Diseaseに掲載されましたのでその論文(文献1)を紹介致します。これらのマウスにおける前臨床試験の結果の有効性が、将来的に、PDの患者さんに対する臨床研究で再現され、PDの新しい治療に結びつくことが期待されます。
文献1.
SVHRSP protects against rotenone-induced neurodegeneration in mice by inhibiting TLR4/NF-κB-mediated neuroinflammation via gut microbiota, Mengdi Chen et al. NPJ Parkinsons Dis. 2025 Mar 6;11(1):43. doi: 10.1038/s41531-025-00892-6.
最近、サソリ毒由来の耐熱性ペプチドSVHRSPの神経保護作用が注目されており、実際、これまで、PDの薬剤モデルにおいて、SVHRSPペプチドが黒質領域における炎症を抑制することによりドーパミン作動性神経変性を減弱することが示されているが、更なるメカニズムが関与しているかも知れない。興味深いことに、腸内環境の変化がPDの病態に関連する可能性を示唆しており、この理解を深めることが治療に結びつく可能性がある。従って、PDのロテノン誘発性モデルにおいて、SVHRSPペプチドの神経保護効果と腸内環境の関連性について解析することを本プロジェクトの研究目的とする。
以上より、本研究の結果は、PDの治療におけるSVHRSPの神経保護効果に関する腸内環境の重要性という新しい視点を提供するものである。