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分子病理・ヒストロジー解析室について


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室長 長谷川 成人

都医学研では、以前から組織化学的な解析を支援するため、ヒトを対象とした神経病理解析室と実験動物を対象としたヒストロジー支援室が設置されていました。しかし、研究の発展に伴う実験動物の多様化(小さなショウジョウバエから大型の動物まで)に伴い、組織標本を作製するニーズに対応するために2022年12月にこれら2つを統合し、細胞からヒトまでを組織化学的に解析できる「分子病理・ヒストロジー解析室」として研究支援力の強化を図りました。

分子病理・ヒストロジー解析室では、都医学研のプロジェクト研究、病院等連携研究の病理、組織化学、生化学的な解析等の支援を行っており、光学顕微鏡と電子顕微鏡の組織標本作製、技術指導、そして機器利用サービスを提供しています。

主な業務は以下の4つに分かれます。

1.分子病理解析

神経変性疾患等で剖検になった患者脳などの組織学、生化学解析、電子顕微鏡による超微細形態解析、発現解析等を行い、疾患の分子メカニズムの解明に取り組みます。都立松沢病院、都立神経病院等と連携し、患者組織の神経病理診断の支援を行うと共に、疾患の発症や進行機構の解明について研究を行います。

2.ヒストロジー解析支援

組織病理標本の作製支援、標本作製技術の指導、電子顕微鏡解析、抗体作製、解析技術や手法の開発などを通して、都医学研のプロジェクト研究や病院等連携研究の支援を行います。プロジェクト研究で必要とされる標本作製、免疫組織染色の支援や技術指導、超微細形態の観察やヒト組織の観察など、種々のご相談に応じて対応します。

3.脳神経病理標本ライブラリ

病理標本室に保管する標本、パラフィンブロックおよび研究資料(都立病院など東京都の施設と連携して登録された約5,000例)は国内外最大級のライブラリで、その管理、運用を行います。これらを維持管理すると共に、さらに発展させるよう都立病院と連携して、質を向上し標本数を増やし、プロジェクト研究や教育活動などに活用していきます。

4.脳神経病理データベース

脳神経病理標本ライブラリの人脳病理標本をバーチャルスライドシステム機器にてデジタル化しデータベースを構築しています。このデジタル化した標本をWEB上で公開し、病院の医師や医学部の学生が神経病理を学ぶ場として活用していきます。

分子病理・ヒストロジー解析室に求められるものは、都医学研のプロジェクト研究が必要とする組織学全般の支援であると同時に、時代と共に進化していく解析技術を取り入れ、病態解明の研究に取り組んでいく研究活動でもあります。また都立病院と連携し、病気の診断や分類、バイオマーカーの探索などを通じて都民の医療や福祉に少しでも貢献していくことと思います。医学研究を行う上で、形態的な変化や機能的な変化を読み取ることができる組織標本は重要です。そして、顕微鏡を用いて細胞や組織の微細な構造や分子の局在を観察するには適切な標本の作製が不可欠です。時代とともに研究解析技術は大きく発展、変化していく中、過去の染色法や解析技術が次第に使われなくなることもありますが、古い方法でも重要なものは継承しつつ、新しい技術の習得にも取り組んでいきます。ヒトから実験動物まで幅広いサンプルを観察するためにはそれぞれ最適な条件で作業を進めていかなければなりません。

病理、病理学という言葉を調べると、病気の原因や発症機序を組織学、解剖学的に解明する学問とあります。原因不明の変性疾患も原因遺伝子や原因タンパク質が明らかになり、その構造までもが解かれる時代となりました。このような研究をより推進していくと共に、プロジェクト研究を積極的に支え、また都立病院等との連携研究を支援していきます。所内で免疫組織染色等でお困りの方、都立病院等で細胞組織、神経病理学的な支援を必要とされる方はお気軽にご相談頂ければと思います。

マルチディスカッション顕微鏡
マルチディスカッション顕微鏡
透過型電子顕微鏡
透過型電子顕微鏡

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