開催報告

第12回 都医学研シンポジウム(2023年3月8日 開催)
時間タンパク質学とパラメトリク翻訳の融合


体内時計プロジェクトリーダー 吉種 光

2023年3月8日(水曜日)、当研究所では、第12回都医学研シンポジウムを開催しました。今回のテーマは「時間タンパク質学とパラメトリク翻訳の融合」で、領域代表を務める学術変革領域B「時間タンパク質学」と、土居雅夫教授(京都大学 薬学部)が領域代表を務める学術変革領域B「パラメトリク翻訳」との2つの研究領域の合同領域会議として開催されました。今回はハイブリッド方式で開催されましたが、会場の関係者とオンライン参加者を合わせて179名の参加をいただき、活発な議論で盛り上がりました。

学術変革領域B「時間タンパク質学」では、約24時間周期の概日リズムや季節応答など様々な時間スケールの生命現象が存在しますが、このような現象を直接的に駆動する、つまり「時」を生み出すような仕組みを理解することを目指しています。本シンポジウムでは、領域代表の吉種に加えて、領域メンバーから、京都府立医科大学の八木田和弘先生、分子科学研究所の向山厚先生、名古屋大学の松尾拓哉先生、筑波大学の戸田浩史先生にご登壇いただきました。例えば、原核生物であるシアノバクテリアは、KaiA、KaiB、KaiC という3つのタンパク質を持っていますが、この3つのタンパク質とATPを試験管で混合するだけで、約24時間周期の概日リズムが観察されます。また真核生物においても、全長5-10cmの巨大単細胞生物であるカサノリは、除核をしても、つまり転写リズムがない条件でも、約24時間周期の光合成リズムが観察されます。このように転写に依らずタンパク質レベルで「時」が生み出される分子メカニズムについて最新の研究成果をご紹介いただきました。

学術変革領域B「パラメトリク翻訳」では、生命のしなやかさの背後にある連続的でゆるやかに変化する「パラメトリック」な適応機構の理解を目指し、特にRNA量に応じてタンパク質を一定量製造するだけと考えられがちな「翻訳」は、実は細胞内外の状況に応じて自在に翻訳速度を変える可変装置である、と考えて研究を推進しています。本シンポジウムでは、領域代表の土居先生に加えて、領域メンバーから、大阪大学の原田慶恵先生、理化学研究所の岩崎信太郎先生、京都大学の三宅崇仁先生にご登壇いただきました。例えば、概日時計は連続的でゆるやかに変化する体温リズムに同調しますが、この時、時計遺伝子PER2が新しい翻訳制御を受けることを発見された、という最新の研究成果をご発表いただきました。2つの領域分野が融合したからこそ見えてきた新しい研究ビジョンについて会場は大いに盛り上がりました。

参加者集合写真