開催報告

2022年度 第8回 都医学研都民講座(2023年2月4日 開催)
愛情ホルモン・オキシトシンは炎症も抑えてくれる


統合失調症プロジェクトリーダー 新井 誠

2月4日(土曜日)、当研究所では、「愛情ホルモン・オキシトシンは炎症も抑えてくれる」と題して、第8回都医学研都民講座をハイブリッド方式で開催しました。本講演では、金沢大学大学院医薬保健学総合研究科血管分子生物学教授の山本靖彦先生を講師にお迎えしました。山本先生は、2021年4月より日本メイラード学会の学会長として糖化研究を牽引されております。従来、糖化研究は食品科学の領域にて発展を遂げてきましたが、近年では疾患生物学領域でも注目をされるようになっています。山本先生は、‘糖化反応の理解が老化研究と愛情研究を切り拓く’ということを掲げ、哺乳類のみが持つ終末糖化産物受容体(RAGE)が社会性行動に重要なホルモンのひとつである「オキシトシン」の機能と深く関わっていることを明らかにされました。

私たちの体の中には100種類を超えるホルモンがあるとされており、それぞれのホルモンが異なる働きを持ち、その機能として睡眠、脳機能、消化吸収、循環、呼吸、免疫、代謝などの身体の調節作用を発揮しています。いわば身体の機能がスムーズに働くためのスイッチとなっているものです。ホルモンはそれぞれに特徴的な働きを持つため、必要な時に分泌され、恒常性が保たれるように身体の中では微妙な調節が行われています。脳の下垂体から分泌されたオキシトシンによって子宮筋が収縮し、分娩を促進させる作用があることや、膵臓のインスリンの分泌の促進、肝臓の糖代謝の改善、抗肥満作用とも関わりがあること、また、オキシトシンが視床下部の神経細胞で合成された後に下垂体で貯蔵され、刺激に応じて放出されたり、血管内の結合タンパク質と一緒に機能したり、短時間で分解酵素によって調節されるといった現象を最先端の知見を交えながらわかりやすくご紹介いただきました。本講演では、「愛情ホルモン」や「幸せホルモン」と呼ばれるオキシトシンの魅力だけでなく、オキシトシンの機能を司るメカニズムの理解を通して、育児放棄や虐待などの深刻化する社会問題の解決にもつなげていきたいと語られました。講演後のアンケートでは、「オキシトシンは幸せホルモンとして漠然ととらえていましたが、ホルモンの分泌、分解、受容体結合等の仕組みを、専門的な研究の説明をお聞きして大変勉強になりました。」といった御意見を多く頂きました。

山本靖彦 先生
山本靖彦 先生