心の健康ユニット 副参事研究員 宮下 光弘
3月17日(金曜日)に、「若者の幻覚・妄想体験と自殺を防ぐための社会的な取り組み」と題して、第24回都医学研国際シンポジウムを開催しました。今回は、英国と米国から3人の研究者をお招きし、最先端の研究成果をご講演いただきました。
若者における幻覚や妄想などの精神病体験は自殺と関連するため、若者の自殺を防ぐためには精神病体験を早く見つけて、適切にケアすることが大切です。エディンバラ大学のイアン・ケラー先生は、精神病体験を早く見つけるための英国での取り組みとして、若者が安心してメンタルヘルスの不調を相談できる窓口を整備していることを紹介されました。また、フォーダム大学のジョーダン・ディビルダー先生は、自殺防止サポートチームのメンバーを精神病体験のある若者自身が選ぶ、という米国の新たな自殺予防の取り組みを発表されました。
精神病体験が長く続くと統合失調症などの精神病を発症する可能性が高まることが知られています。これまで、精神病の発症はどの国でも、どの地域でも約1%と説明され、悲観的な経過が強調されてきました。ジョーダン先生は、人種差別や警察の暴力を受けた経験がある若者では精神病体験を生じやすいことを発表されました。また、キングス・カレッジ・ロンドンのクレイグ・モーガン先生からは、人種差別、貧困、暴力、いじめや虐待などの幼少期の逆境体験が精神病の発生に大きく影響していることを発表されました。さらに、トリニダードトバゴ、インド、ナイジェリアなどの発展途上地域における大規模疫学調査によって、精神病の発生頻度や好発年齢が国によって異なり、予後は悲観的ではないことを発表されました。
心の健康ユニットの山﨑修道副参事研究員は、先行する精神病体験がその後の自傷行為を予測することを報告し、宮下光弘副参事研究員は、過剰な糖から生じる有害な終末糖化産物が、いじめによって蓄積することを発表しました。
今回のシンポジウムでは、英国や米国での最新の自殺予防の取り組みを学びました。また、精神病体験の発生を防ぎ、その先にある自殺を予防するためには、差別、貧困、暴力、幼少期の逆境体験などの社会的な課題に取り組むことが必要不可欠であることもわかりました。