開催報告

2023年度 第1回 都医学研都民講座(2023年4月27日 開催)
遺伝性神経疾患におけるカルパイン制御について


カルパインプロジェクトリーダー 小野 弥子

4月27日(木曜日)、「遺伝性神経疾患におけるカルパイン制御について」と題して、2023 年度第1回都医学研都民講座をハイブリッド方式で開催しました。今回は、福井大学学術研究院医学系部門教授の山田雅己先生を講師にお迎えしました。

様々な神経変性疾患において、細胞内に存在するタンパク質分解酵素であるカルパインの機能異常が発症機構や病態進行に大きく関与することが報告されています。今回、山田先生には、滑脳症という発達障害疾患の発症機構に、カルパインによるタンパク質分解がどのように関わるのか、を明らかにした研究についてお話し頂きました。

滑脳症は、一般的に脳のシワと呼ばれる脳回や脳溝がないことが特徴で、臨床症状としては、精神遅滞やけいれん等の重い症状がみられます。複数の原因遺伝子が報告されていますが、突然変異による散発例が多く、現状では根本的な治療方法はありません。一方、滑脳症の発症メカニズムに共通しているのは神経細胞の移動障害による脳形成異常であり、特に胎生期に脳が作られる段階における細胞内物流システムの重要性が注目を集めるに至っています。

福井大学 山田雅己先生
福井大学 山田雅己先生

神経細胞の中心部(中心体)と先端(神経終末)の間では微小管を介して様々な物質が輸送されていますが、滑脳症原因遺伝子の多くが微小管関連タンパク質の遺伝子です。また、その6割を占める Lis1遺伝子変異では、カルパインによる Lis1タンパク質の分解が亢進しているため、Lis1タンパク質の減少と、その結果、神経細胞内での物質輸送が滞ってしまうということが見出されています。このような知見をもとに、培養細胞やLis1遺伝子変異マウスの系において、カルパイン阻害薬の効果を検討した結果、神経細胞の移動能力や個体の運動能力や記憶・学習効果の回復・改善が見られたということをお話し頂きました。疾患治療を目的としたカルパイン阻害剤の開発は世界中で進められていますが、滑脳症への応用は発生時期を視野に入れているという特徴があり、そのために様々な問題点の克服が必要でもあります。講演を通じて、臨床・開発・基礎という3本柱の中で、基礎の立場だからこそ、発症メカニズムに即した治療法確立に挑戦する、という先生の熱意が伝わってきました。

講演後のアンケートでは、「滑脳症の子供がいるため興味があり参加しました。有効な治療法が早く見つかると良いなと思います。」といった御意見を多く頂きました。