Topics

新型コロナウイルス感染症に伴う小児の急性脳症


こどもの脳プロジェクトリーダー 佐久間 啓

新型コロナウイルス感染症 COVID-19 の原因ウイルスである SARS-CoV-2 は主に呼吸器に感染し、脳に影響を及ぼすことは稀と考えられてきました。しかし 2022 年に基礎疾患のない小児が COVID-19 に伴い急性脳症を発症し死亡したというニュースが報道され、社会的関心が急速に高まりました。そこで私たちは我が国の小児におけるCOVID-19 に伴う急性脳症の実態を明らかにするために、厚生労働科学研究・難治性疾患政策研究事業「小児急性脳症の早期診断・最適治療・ガイドライン策定に向けた体制整備研究班」(通称:小児急性脳症研究班)の事業として緊急の全国調査を実施しました。その結果、31 名が基礎疾患を持たずに COVID-19 に伴い急性脳症を発症したことがわかりました。急性脳症の発症数はオミクロン株が流行の主体となった 2022年 1月以降に急速に増加しており、これは小児における COVID-19 患者数が増加した結果と考えられました。急性脳症症候群のタイプとしてはけいれん重積型(二相性)急性脳症が最も多く、また過去の調査では極めて稀とされていた、劇症脳浮腫を伴う脳症や出血性ショック脳症症候群という重症のタイプが比較的多いことがわかりました。COVID-19 関連急性脳症の半数以上は後遺症なく回復しましたが、4名が死亡し 5名が重度の後遺症を残し、その他のウイルスによる急性脳症と比較して重症化する傾向がありました(図)。

我が国ではウイルス感染症に伴う小児の急性脳症が多いのに対し、欧米では発生が少ないためこの病気は医療関係者の間でもあまり知られておらず研究が進んでいません。さらにその原因は未だに不明であるため、有効な治療方法は確立されていません。今後は今回の研究では調査できなかった治療内容についてもデータを集め、新しい治療法の開発に向けたエビデンスを集めていかなければなりません。特に重症で死亡率の高いタイプの急性脳症に対する研究を加速する必要があります。また小児に対するワクチン接種が急性脳症の予防につながるかどうかについても検討が必要です。私たちは今後も COVID-19 に関連する急性脳症の調査を継続し、その結果を発信し続けたいと考えています。さらにこのような研究を進めていくためには、 COVID-19 をはじめとするウイルス感染症に伴う急性脳症の患者登録システムを作るなど、データを効率的に集めるための体制作りが必要です。

図