こどもの脳プロジェクト 主席研究員葛西 真梨子
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、時に小児の重篤な神経学的合併症として急性脳症1) を引き起こすことが分かってきました。本研究では、SARS-CoV-2 感染に伴って発症する急性脳症(以下、SARS-CoV-2 関連脳症)の疫学を調査し、SARS-CoV-2 関連脳症と他のウイルス関連脳症の臨床的違いを明らかにするために全国調査を実施しました。本研究は、2020年1月から2022年11月までに SARS-CoV-2 関連脳症を発症した 18歳未満の小児を対象に行いました。対象期間内に SARS-CoV-2 関連脳症と診断された患者は 103人でした。103人の SARS-CoV-2 関連脳症患者のうち、14人が劇症脳浮腫型脳症および出血性ショック脳症症候群2) という最重症タイプの急性脳症でした。過去のウイルス関連脳症の疫学調査結果と比較して、これら最重症タイプの脳症は SARS-CoV-2感染で発症頻度が高いことが明らかになりました(図1)。 SARS-CoV-2 関連脳症の転帰は、完全回復が45人、軽度から中等度の神経学的後遺症は28人、重度の神経学的後遺症は17人、死亡は11人でした(図2)。SARS-CoV-2関連脳症では他のウイルス関連脳症と比べて、最重症タイプの脳症の割合が多く、神経学的後遺症または死亡に至った患者が有意に多いことが明らかになりました。日本人はウイルス感染症に伴う小児の急性脳症の発症が多いことが知られています。今後は、SARS-CoV-2 関連脳症の中でも、劇症脳浮腫型脳症および出血性ショック脳症症候群に注目し、迅速診断のためのバイオマーカーや有効な治療開発に向けてエビデンスを構築していきたいと考えています。