Topics

視神経の再生に新たな可能性
~ DOCK3と HAUS7の連携が軸索再生を促進~


視覚病態プロジェクトリーダー 原田 高幸
副参事研究員 行方 和彦、副参事研究員 篠崎 陽一

視覚病態プロジェクトの原田高幸プロジェクトリーダー、行方和彦研究員、篠崎陽一研究員らは、東北大学大学院医学系研究科・眼科学教室の清田直樹医師(元・東京都医学総合研究所 協力研究員)、中澤徹教授らと共同で、「HAUS7(ハウスセブン)」が視神経再生を促進する分子であることを発見し、その機能メカニズムを解明しました。

本研究成果は、米国科学振興協会(AAAS)が発行するオープンアクセス学術誌「Science Advances」に 2025 年 7 月に公開されました。

私たちの「視力」を支える細いケーブル

私たちは、目に入った光の情報を脳に送ることで「もの」を見ています。この情報を運ぶ大切なケーブルの役割を果たしているのが「視神経」です。

しかし、この視神経はとてもデリケートです。日本人の失明原因の第1位である「緑内障」や、事故による怪我などで一度傷ついてしまうと、現代の医学では再生させることが極めて困難とされてきました。なぜ、私たちの目の神経は一度壊れると元に戻らないのでしょうか。その謎を解く大きな鍵が、今回の研究で見つかりました。

軸索再生を助ける「運び屋」と「大工さん」

我々は、視神経が伸びるために欠かせない2つのタンパク質の連携を突き止めました。

研究では、運び屋の DOCK3 が、職人の HAUS7 を神経の先端まで送り届けることで、まるでレールが伸びるように神経の「軸索(じくさく)」が再生していく仕組みが明らかになりました。

実験で証明された「再生のちから」

我々が、この「職人(HAUS7)」が働かないようにしたマウスで実験を行ったところ、驚くべき結果が出ました。

また、緑内障のマウスを調べたところ、これら2つの遺伝子の働きが弱まっていることも判明しました。つまり、緑内障で視力が失われる一因は、この「運び屋」と「職人」の連携がうまくいかなくなることにあるのかもしれないのです。

これからの展望:失明を防ぐ「新たな治療法」へ

これまでの緑内障治療は、主に「眼圧を下げる(病気の進行を遅らせる)」ことが中心でした。しかし、今回の発見により、壊れかけた神経を直接「再生させる」という、全く新しいアプローチの可能性が見えてきました。

今後は、この HAUS7 などの仕組みを詳しく調べることで、緑内障や視神経の怪我で苦しむ方々の視力を回復させる「魔法の杖」のような治療薬や治療法の開発に繋げたいと考えています。

誰もが一生、鮮やかな景色を楽しめる社会へ。都医学研の挑戦はこれからも続きます。

【用語説明】

  • 軸索(じくさく):神経細胞から伸び、情報を他の細胞へ伝えるための「ケーブル」の役割を果たす突起です。

【論文】

  • Kiyota N, Shinozaki Y, Guo X, Kimura A, Kawamura K, Nishijima E, Honda S, Harada C, Nakazawa T, Namekata K, Harada T. Role of HAUS7 as a DOCK3 binding partner in facilitating axon regeneration. Sci Adv. 2025 Jul 25;11(30):eadq7105. doi: 10.1126/sciadv.adq7105. Epub 2025 Jul 25.
図1: