*開催報告の所属先名については、開催日時点のものです。
社会健康医学研究センター長 西田 淳志
2025 年 10 月 17 日、当研究所にて第5回都民講座が開催されました。今回のテーマは、妊産婦のゆとり感を高める「パーソンセンタードケア」と、東京都アーリーパートナーシップモデルへの挑戦です。そこでは、孤立しがちな育児の現場をデータと対話の力で変えようとする、当研究所の最新の研究成果が報告されました。
まず私より、虐待死亡事例の多くが生後3ヶ月以内に集中している実態を提示しました。
これは親の資質の問題ではなく、出産直後の大変な時期に助けを求めにくい環境が背景にあります。「問題が起きてから支援するのではなく、妊娠中から『味方』として繋がることが大切だ」と、当研究所が開発したモデルの意義を話しました。
続いて、当研究所の元主席研究員である馬場香織先生(聖路加国際大学)が、都内自治体と共同開発した「東京都アーリーパートナーシップ(EP)モデル」を報告しました。
この支援の核は、母親を「評価・指導」するのではなく「共に歩む」姿勢です。保健師が「今、生活にどれくらい『ゆとり』がありますか?」と問いかけます。この言葉は、完璧な親であろうと張り詰めたママ・パパの心を、否定することなく受け止めるためのものです。
このモデルの特長は、アドバイスに留まらず、具体的な困りごとを一緒に解決することにあります。お金の不安があれば窓口へ同行したり、ファイナンシャルプランニングを手伝ったり、生活の悩みにも共に解決策を探る。実践の結果、このサポートを受けたグループは産後うつの割合が半減し、心のゆとりが保たれることが証明されました。
「かつて人間は 10 人の大人で1人を育ててきました」という進化生物学者で当研究所の客員研究員である長谷川眞理子先生の言葉を引用して締めくくられた本講座。都医学研は、誰もが当たり前に周囲を頼れる社会を目指しており、一人ひとりの暮らしに寄り添う確かなエビデンスを、発信し続けます。