東京都医学総合研究所のTopics(研究成果や受賞等)

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2021年5月11日
中西三春客員研究員、山崎修道副参事研究員、西田淳志センター長らの「都内主要繁華街の夜間滞留人口が新型コロナウイルス感染症の拡大と関連することを解明」について、デジタルヘルスの医学専門誌『JMIR mHealth and uHealth』に掲載されました。

English page

都内主要繁華街の夜間滞留人口が新型コロナウイルス感染症の拡大と関連することを解明

当研究所社会健康医学研究センター 中西三春客員研究員、山崎修道副参事研究員、西田淳志センター長らは、東京大学の柴崎亮介教授、並びに京都大学の西浦博教授らと連携し、都内主要繁華街のレジャー目的の夜間滞留人口の推移が、その後の新型コロナウイルス感染症の新規感染者数及び実効再生産数の推移と関連することを明らかにしました。

英国科学雑誌Natureに2020年に発表されたChang et alの論文では、様々なサービス施設の中で、アルコールの提供を含む飲食店が最も新型コロナウイルスの感染リスクが高いことが報告されています。こうした先行研究の知見を踏まえ、本研究では、アルコールの提供を行う飲食店が密集する主要繁華街に、レジャー目的で夜間に滞留する人口の増減が、その後の新規感染者数(発症日基準)や実効再生産数の増減と関連することを明らかにしました。感染者数拡大に先行する指標として、主要繁華街の夜間滞留人口をモニタリングすることの有用性を示唆しています。また、本研究では、日々メディアで報道される報告日基準の感染者数の増減が、その後の繁華街夜間滞留人口の増減と関連することも明らかにしました。人々が、メディア等を通して知らされる新規感染者数の推移を見ながら、行動の自粛を強めたり、緩めたりしていることも示唆されています。

本研究の分析には、東京大学空間情報科学研究センターの柴崎亮介教授、並びにLocationMind社が開発した「レジャー目的」の人流・滞留人口を、匿名化されたスマートフォンGPSデータから抽出する技術が応用されています。研究成果は、2021年5月11日にデジタルヘルスの医学専門誌『JMIR mHealth and uHealth』にオンライン掲載されました。

<論文情報>
新型コロナウイルス感染症拡大時の東京都内の外食:携帯電話の位置情報を用いた時系列分析
“On-site dining in Tokyo during the COVID-19 pandemic: a time-series analysis using mobile phone location data”
<発表雑誌>
デジタルヘルスの医学専門誌「JMIR mHealth and uHealth」
DOI:10.2196/27342
URL:https://mhealth.jmir.org/2021/5/e27342

研究の概要

2020年から世界的に流行している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、感染者の多くが無症状であり、感染した自覚のない者が移動・接触することで感染が拡大します。日本を含む様々な国で、コロナ対策として一般人口の人流を抑制するために、緊急事態宣言や飲食店の営業時間の短縮要請等を行ってきました。しかし、こうした対策と人々の行動、特に感染リスクが高いとされる飲食店滞在(会食)、及び実際の感染状況の間の関係はこれまで明らかではありませんでした。

著者らが所属する社会健康医学研究センター心の健康ユニットは、2020年10月に設立された「東京感染症対策センター(東京iCDC)」に「疫学・公衆衛生チーム」として参画し、東京都の人流データの分析を行っています。同じ疫学・公衆衛生チームの西浦博先生(京都大学大学院医学系研究科環境衛生学分野 教授)や、空間統計の専門家である柴崎亮介先生(東京大学空間情報科学研究センター教授)にご助言・ご指導をいただきながら、今回の研究発表を行いました。

著者らは、スマートフォンのGPSデータから匿名化された位置情報を用いて、東京都内の主要7繁華街におけるレジャー目的の夜間(22-24時)滞留人口が、その後の新型コロナウイルス感染症の新規感染者数及び実効再生産数と関連することを明らかにしました。これまでの研究から、飲食店滞在(会食)が感染リスクの高い行動として明らかになっています。今回、著者らは会食したと推定される人数の推移を得るために、主要な繁華街のエリアに滞留し、かつ、そのエリアが移動パターンから自宅でも職場でもないとされる人の数を時間帯別に推定した値を用いています。2020年3月1日~11月14日の34週間を対象期間として、東京都の発症日基準の感染者数、報告日基準の感染者数、実行再生産数と夜間滞留人口の間の関係を検証しました。解析の結果、ある週の夜間滞留人口が直前の週より増加傾向にあると、そこから3週間後の実効再生産数(7日間移動平均を算出した後の中央日の値)が有意に拡大していました(図1)。

図1 東京都内の主要7繁華街の夜間滞留人口と実行再生産数

一方で、緊急事態宣言や飲食店の営業時間の短縮要請が発出されている期間中でも、報告日基準の感染者数が減少し始めると、夜間滞留人口が増加に転じていました(図2)。

図2 東京都内の主要7繁華街の夜間滞留人口と東京都全体の新規感染者数

本成果は、飲食店滞在(会食)が感染リスクの高い行動であるという先行知見に加えて、感染者数の拡大に先行する指標として、主要繁華街の夜間滞留人口をモニタリングすることの有用性を示唆しています。

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