原孝彦プロジェクトリーダー(幹細胞プロジェクト)
4月22日(金曜日)、当研究所では、「がんの分子生物学と治療法開発の動向」と題して、第1回都医学研都民講座をハイブリッド方式で開催しました。今回は、東京医科大学医学総合研究所教授の中村卓郎先生を講師にお迎えしました。
まず、当研究所幹細胞プロジェクトの原孝彦プロジェクトリーダーから、「幹細胞を利用した新しいがん免疫療法の探索と創薬」と題してお話ししました。がん免疫療法として治療効果が認められているものに、免疫ががん細胞を攻撃する力を保つように作用する免疫チェックポイント阻害薬のオプジーボが有名です。しかし、肺癌患者さんのうち、約70%は効果が乏しいという問題点があります。このため、がん細胞を攻撃する細胞障害性T細胞(CTL)を標的に呼び寄せる働きを持つ樹状細胞を活性化することを目的としたアジュバントを投与する方法や、がんに特異的なCTLを投与するCAR-T療法が世界中で研究されていると、お話ししました。
中村卓郎先生(東京医科大学医学総合研究所教授)
続いて、中村先生から、「がんの分子生物学と治療法開発の動向」と題してお話しいただきました。がん細胞の特徴として、正常細胞よりも速く、細胞の自殺機能が消失することで制御を受けずに永遠に増え続け、正常組織を破壊して侵入するといったことがまず挙げられます。その他にも、がん細胞は、血管形成を誘導することで自らへのエネルギーの供給を容易にすること、代謝の異常を引き起こすことでエネルギーの効率的な活用を可能にすること、さらに、ゲノムが不安定になって新たな変異を獲得しやすくなり、免疫監視機構から逃れて個体から排除されにくくなり、炎症を起こしやすくなることも特徴であるそうです。また、主な発がん刺激として、タバコやアスベスト等の化学物質、ヘリコバクターピロリ等の病原微生物や、紫外線等の物理因子が知られ、それぞれ肺や胃等の標的とする臓器が異なるとのことでした。そして、これらの刺激がDNAの損傷を引き起こし、がんを発生させることから、がんは遺伝子の病気であるといえるとお話しいただきました。
講演後のアンケートでは、「乳がん治療中なので今回参加させて頂きました。自分自身の体の中に起きていることを知りたいといつも思いながら治療を続けています。」といった御意見を多く頂きました。