当研究所こどもの脳プロジェクトの堀野朝子 研修生と佐久間啓 副参事研究員らは、大阪市立総合医療センター小児神経内科の九鬼一郎 医長らとの共同研究により「Febrile infection related epilepsy syndrome(FIRES, 難治頻回部分発作重積型急性脳炎)に対するデキサメサゾン髄腔内注射療法」について Annals of Clinical and Translational Neurology に発表しました。
Febrile infection related epilepsy syndrome (FIRES)は別名難治頻回部分発作重積型急性脳炎とも呼ばれ、生来健康な人が、感染・発熱を契機に群発型けいれん重積を呈する病気です。人工呼吸管理を含めた集中治療が長期に及びその合併症から生命の危機に直面することもあります。また、難治なてんかんを遺し、神経学的予後も不良です。よって新しい治療方法が熱望されていますが、現時点で大きな予後改善に繋がる方法は見出されていないのが現状です。FIRESの原因はいまだに不明ですが、免疫関連性中枢神経疾患の早期バイオマーカーとして役立つとされる髄液中ネオプテリンが上昇していることに注目されてきました。以前私たちは、FIRESにおいて髄液中のサイトカインとケモカインが著しく上昇することを報告し、FIRESに神経炎症が関与することを初めて明らかにしました。その後免疫学的機序の関わりを示唆する報告が増加してきましたが、その著しい神経興奮性の獲得の直接原因は解明されていません。私たちは抗炎症作用を持つデキサメサゾンを髄腔内に投与して脳内の炎症を直接的に抑制することが、FIRESの新たな治療戦略になると考えました。
大阪市立総合医療センターでデキサメサゾン髄腔内注射(IT-DEX)を実施した患者6人の臨床情報からIT-DEXの有効性と安全性を調査し、IT-DEXに伴う髄液中サイトカイン・ケモカインの経時的推移を検討しました。治療前はけいれん発作を抑制するためチオペンタールなどの麻酔薬が使用されていましたが、IT-DEX開始後約5.5日で中止可能となり, 治療中に重大な副作用を認めませんでした。発症からIT-DEX導入までの期間と集中治療室滞在期間、及び人工呼吸器装着期間は正の相関関係を有し、IT-DEXの早期導入がFIRESのcritical stageを短縮する可能性があることが示唆されました。また、脳波上の背景活動、発作波の広がりは全例でIT-DEX後に改善がみられました。最終観察時には6例中2例でてんかん発作が抑制されていました。サイトカイン・ケモカインは病初期ではCXCL-9, CXCL-10, IFN-γ, IL-1β, IL-6, IL-8が、てんかん患者である対照群に比べて上昇していました。IT-DEX治療後では、CXCL-10は有意な低下を認めたものの、その他は、対照群と同等までは低下していませんでした。IT-DEXはFIRESにおけるけいれん重積の期間を短縮する可能性があり、新たな治療の選択肢になりうると考えられました。
今回の検討からは、サイトカイン・ケモカイン非依存性の作用が関与している可能性も残されました。一方で、早期にサイトカイン・ケモカイン値を低下させる治療を達成できれば、さらによりよい患者さんの状態に結びつく可能性があるのではないかと期待されます。