「科学論文の価値をどのように評価するか」は非常に難しい問題であり、絶対的な評価方法が確立しているわけではありません。一方で、評価のためには客観的な基準が必須であり、そのためには数値化される尺度が必要だとする意見もあります。
近年では、論文の影響力(インパクト)を評価する指標の一つとして、他の論文で何回引用されたのかを表す被引用回数/Citationsが汎用されています。これは「影響力のある論文は他の論文で頻繁に引用されるので、論文が引用される回数はその論文の影響力を表す指標のひとつである」とする考えに基づいています1)。
ユビキチンプロジェクトの松田憲之参事研究員と田中啓二理事長は、2010年に遺伝性パーキンソン病の原因遺伝子産物 PINK1(セリン/スレオニンキナーゼ) と Parkin(ユビキチン連結酵素)が協調してミトコンドリアを分解に導く仕組みの概略を発表しました2)。この論文で筆者らは、(1) ミトコンドリアのダメージ(脱分極)によって PINK1 が安定化すること、(2) 安定化したPINK1が損傷ミトコンドリアにParkinを動員するとともに、ユビキチン連結酵素として不活性型であった Parkin を活性型に変換すること、(3) 損傷ミトコンドリアを分解するために、活性型 Parkin がユビキチンをミトコンドリアに付加すること、(4) パーキンソン病の患者由来の多くの疾患変異がこの一連のプロセスを阻害すること、を示しています。
2021年に、この論文の被引用回数が1,000回を超えました。被引用回数の算出は、最も厳格な基準で知られる Web of Science (Clarivate) データベースに基づくものです3)。Web of Science に収録される約5,800万報の論文のうち被引用回数が1,000を超える論文は約15,000報で、論文全体に占める割合は 0.03%、つまり被引用回数が1,000を超える論文は1万報に3報程度と言われています4) 5)。論文の価値は被引用回数だけで決まるものではありませんが、1,000回という被引用回数は、この論文の関連領域における突出した影響力(インパクト)を示しています。今後とも、所属する研究分野において道標となり、長く引用されるような論文6)の発表を目指して、研究を続けていきたいと思います。