当研究所幹細胞プロジェクトの岩瀬 璃奈 元研修生, 原 孝彦 参事研究員, 種子島 幸祐 主席研究員らは、徳島大学 大高 章 教授らのグループと共同で「ケモカインがDNAと結合して自然免疫を活性化する仕組み」を解明し、米国科学誌「Journal of Immunology」に発表しました。
ケモカイン(注1)は細胞の遊走を促進する分泌タンパクであり、白血球を呼び寄せることで炎症反応などに寄与していることが知られています。このケモカインの一般的な機能に加えて、2017年に当幹細胞プロジェクトの研究により、ケモカインの一種であるCXCL14がCpG DNA(注2)と呼ばれる細菌のDNAに多く含まれるDNA配列に結合し、その樹状細胞(注3)への取り込みを介して、自然免疫 (注4) の誘導や炎症反応を大幅に増強するという新たな機能を発見しました。しかし、この機能がケモカインに共通の機能なのか、どのようなメカニズムで取り込み増強が起こるのかは不明なままでした。
本研究では、CXCL14と同じCXC型のケモカインであるCXCL4がCXCL14と同様の機能を持ち、CpG DNAによる樹状細胞の活性化を増強することを明らかとしました。また、CXCL14はCpG DNAと細胞表面受容体への結合ドメインの両方を持ち、CXCL14/CpG DNAの複合体が、クラスリン依存性エンドサイトーシス経路により、樹状細胞へ取り込まれることがCpG DNAの活性増強に必要であることを初めて明らかとしました (図1)。また、CXCL14/CpG DNAの結合をシミュレーションにより解析し、CXCL14のN末端側とC末端側の複数のアミノ酸が協調的に働いて結合を安定化していることが示されました (図2)。これらの結果により、CpG DNAとの結合によりケモカインが自然免疫を活性化する仕組みを、初めて分子生物学的に明らかとしました。
図1.CXCL14とCpG DNAの自然免疫活性化のメカニズム
CXCL14はCpG DNAと細胞表面受容体への結合ドメインの両方を持ち、CXCL14/CpG DNAの複合体が、樹状細胞へ取り込まれることにより、CpG DNA受容体Toll-like receptor 9 (TLR9)を活性化する。
図2. CpG DNAとCXCL14の結合様式のシミュレーション
CpG DNAのリン酸基が、N末端側のCXCL14のアミノ酸 (R7, K8, R11)とC末端側のアミノ酸 (S57, R60)によって認識される様子がシミュレーションにより明らかとなり、実際の実験データでも、N末端側とC末端側のアミノ酸が協調的に働いていることが明らかとなった。
CXCL14とCpG DNAはどちらもがん免疫の増強に関連することが知られています。また、本研究で示したCXCL14とCpG DNAによる樹状細胞の活性化は、ワクチンの効果を高めるワクチンアジュバントとしての機能が期待されます。本研究成果を足がかりとして、CXCL14とCpG DNAの協調的な作用がさらに解明されれば、より効率の良いがん免疫増強剤やワクチンアジュバントの開発につながる可能性があります。
<本研究の主な助成事業>
日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金などの支援を受けておこなわれました。