東京都医学総合研究所のTopics(研究成果や受賞等)

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2021年9月21日
認知症プロジェクトの長谷川成人プロジェクトリーダー、樽谷愛理客員研究員、亀谷富由樹研究員らは共同研究により、「構造に基づくタウオパチーの分類」について、2021年9月21日に英国科学雑誌「Nature」に発表しました。

構造に基づくタウオパチーの分類

当研究所 認知症プロジェクトの長谷川成人プロジェクトリーダー、樽谷愛理客員研究員、亀谷富由樹研究員らは、MRC Laboratory of Molecular BiologyのMichel Goedert, Sjors Scheresグループリーダーらとの共同研究により、「構造に基づくタウオパチーの分類」について、2021年9月21日に英国科学雑誌「Nature」に発表しました。

<論文名>
“Structure-based classification of tauopathies”
「構造に基づくタウオパチーの分類」
<発表雑誌>
英国科学雑誌「Nature」
DOI:https://doi.org/10.1038/s41586-021-03911-7
URL:https://www.nature.com/articles/s41586-021-03911-7
※こちらもご覧ください。
https://www2.mrc-lmb.cam.ac.uk/classification-of-human-tauopathies-based-on-tau-filament-folds/

研究の背景

誤って折り畳まれたタウタンパク質が線維化して蓄積する病態は、多くの神経変性疾患に認められ、このような疾患はタウオパチーと総称されます。LMB神経生物学部門のMichel Goedert研究員のグループとLMB構造研究部門のSjors Scheres研究員のグループは、長年にわたる共同研究で、アルツハイマー病、原発性加齢関連タウオパチー(PART)、慢性外傷性脳症(CTE)、ピック病、大脳皮質基底核変性症(CBD)などのタウオパチーのタウ線維の構造を、クライオ電子顕微鏡を用いて解明してきました。今回、2人は、長年の共同研究者であるインディアナ大学医学部のベルナルディーノ・ゲッティ教授と当研究所の長谷川成人プロジェクトリーダーと共同で、さらに8つのタウオパチーのタウ線維の構造を解明しました。今回の研究成果は、タウオパチーの階層的な分類を示唆するものであり、今後の診断や治療のアプローチに重要な意味を持ちます。

研究の概要

今回、研究グループは、神経病理学的に診断された様々な疾患の脳組織から、タウ線維を調製し、クライオ電子顕微鏡を用いてその構造を決定しました。これまでに研究されてきた疾患に加えて、今回新たに、進行性核上性麻痺(PSP)、球状グリア性タウオパシー(GGT)、嗜銀顆粒性認知症(AGD)のタウ線維の構造を決定しました。加齢性関連タウアストログリオタウオパチー(ARTAG)、家族性英国認知症(FBD)、家族性デンマーク認知症(FDD)、およびタウ遺伝子MAPTのイントロン10内の+3および+16位の変異を持つ遺伝性の症例のタウ線維の構造も解明しました。
タウオパチーの特徴はこれまで主に臨床診断と死後の神経病理学診断によって明らかにされてきました。今回のクライオ電子顕微鏡による発見は、これまでの研究とあわせて考えると、タウオパチーを線維の形態に基づいて分類する新しい階層的な方法を示唆しています。また、PSPと診断された患者のタウ線維の構造が他のPSP患者と異なることから、「Limbic-predominant Neuronal inclusion body 4R Tauopathy(LNT)」と名付けられた新たな疾患の発見にもつながりました。

さらに、この方法は、疾患間の類似性と相違性を研究するための新しい方法を提供しています。例えば、PSPとCBDは、臨床的に似た4リピートタウオパチーであることから、かつては密接な関係があると考えられていました。しかし、今回の研究で、PSPとCBDのタウの折り畳みは、想定されていた以上に異なっていたことが示されました。実際、PSPのタウ線維の構造を解明することで、3層構造の新しい折り畳みが明らかになりました。クライオ電子顕微鏡による解析では、PSPの線維はGGTの線維に似ており、4層構造であるAGDの線維はCBDの線維に似ていることがわかりました。AGD型の線維は、イントロン10の変異例にも見られます。最後に、FBDおよびFDDの症例のタウ線維の構造は、アルツハイマー病およびPARTの症例のものと同じでした。
この新しい分類は、これまでの臨床診断や神経病理学的アプローチを補完するものであり、新たなタウオパチーの同定を可能にするものです。異なる折り畳みは、同じタンパク質からできているにもかかわらず、異なる疾患を引き起こします。これらの異なる折り畳みが形成される分子メカニズムはまだ解明されておらず、これらのメカニズムが解明されれば、タウオパチーの診断や治療に大きな意味を持つことになるでしょう。

タウの折り畳み構造に基づいてタウオパチーを分類する新しい方法

長谷川成人プロジェクトリーダーらは、日本ブレインバンクネットの研究者(東京都健康長寿医療センター 齊藤佑子部長、大阪大学 村山繁雄教授、愛知医大 吉田眞理教授、新潟大学 柿田明美教授、田中英智助教、池内健教授)によって神経病理診断がなされたPSP例、GGT例、AGD例、及びマンチェスターブレインバンクの研究者(David Mann, Andrew Robinson)によって診断されたMAPT変異例の凍結剖検脳からクライオ電験解析のためのタウ線維試料を調製し、さらに生化学、電子顕微鏡、質量分析による翻訳後修飾などの解析も実施して、構造解明に大きく貢献しました。

本研究の主な助成事業

本研究はJST-CREST「細胞外微粒子により惹起される生体応答の機序解明と制御(細胞外微粒子)」(代表 長谷川成人)、AMED「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト(革新脳)」などの研究助成支援により実施しました。

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